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筑波大発ベンチャーが躍進している理由

今年度32億円資金調達
筑波大発ベンチャーが躍進している理由

筑波大発VBのFullDepthはセンサーと無線通信で環境情報を収集する(同社提供)

 筑波大学の大学発ベンチャー(VB)によるベンチャーキャピタル(VC)などからの資金調達が、2018年度は11月までで32億円、15年度からの累計で56億円になった。同時期に創業されたVB約40社などの成長を後押しする。これにより大学がVBから年5000万円の大型共同研究費や、寄付を受けるようになっている。国立研究開発法人との連携や創業者の多様性など同大の特徴を生かし、VB輩出の“場”が構築されつつある。

 筑波大発VBの資金調達額はここ2年ほど一度に7億円、10億円、13億円など大型のものが目立つ。その結果、同大とVBの共同研究に用意されるVBからの資金も大型化している。さらに同大は指導、施設利用、特許譲渡などの対価となる、VBの株式(ストックオプション)の取得も始めた。

 この手法をITのピクシーダストテクノロジーズ(東京都千代田区)と、創薬のTNAX Biopharma(茨城県つくば市)の2社それぞれで用いた。株式上場など将来にわたりリターンが期待できる。別の黒字化したVBから、数百万円の寄付も受けている。

 これらのきっかけの一つは、同大が金融出身の専門人材を雇用しネットワークを広げたことだ。年約200件の技術シーズの発掘も大きい。筑波地域の国立研究開発法人(研発法人)と同大の共同研究など、独自の公募事業の応募事案を活用した。

 また、文部科学省の次世代アントレプレナー育成事業「EDGE―NEXT」には、教員や学生に加え研発法人からも参加。VBの経営者が助言者として、ビジネス候補案件の市場調査で企業を紹介し、ビジネスプランの改善に導く。これにより17年度は参加22チーム中、9チームが創業の計画を打ち出した。同大発VBは創業者が教員、在学生、卒業生、研発法人関連など多様な点も、次を生み出す力として効いてきそうだ。

 

大学発VBの大学側メリットって何?


Q 国立大学は大学発ベンチャー(VB)の株式所有が難しかったのでは。

A 以前は特許ライセンスの対価など限定されていたが、規制緩和で大学発VBに対する幅広い業務(技術指導、施設やデータの活用)の対価で取得可能となった。同時にVBの上場後、機会を見て株式を高価格で売却できるようになっている。

Q 従来、VB支援は大学によって差がある印象だったが。

A 確かに支援なしの大学も少なくない。教員や学生など創業者個人と異なり大学が株を持てない場合は、VB活躍によるメリットは大学ブランドの向上だけ。後は大学・VBが組んだ産学連携の予算獲得くらい。会社ゆえのトラブルを避ける傾向があった。

Q 筑波大で出てきた新メリットは。

A 産学の共同研究費をVBが大学に提供、それも数千万円の規模というのは新しい動きだ。寄付も「せっかく黒字化したのだから、税金納付でなくまずは一番、世話になった大学に戻したい」という気持ちか。これで支援に乗り出す大学が増えるといいね。
(文=山本佳世子)
日刊工業新聞2018年12月6日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
大学発VB数3位というランキング実績を持つ筑波大学。東京大学、京都大学に次ぐ位置にある。これは大阪大学、東北大学といった政府資金の出るベンチャーキャピタルがある大学より上だ。それだけに、「独自のキャピタルを持たなくても、これだけの資金を市場から呼び込める」という点は、他大学を大いに刺激する。医療・福祉ロボットの筑波大発VB「サイバーダイン」の大成功例に続く案件を、と多くの関係者が期待している。

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