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自動車の軽量化を考える(2)軽量素材の”一番手”-アルミ

重さが3分の1もコストは数倍。結局は軽量化とコストとのバランス
自動車の軽量化を考える(2)軽量素材の”一番手”-アルミ

自動車へのアルミの採用は燃費改善に効果

 耐食性に優れ、鉄に比べて比重が3分の1というアルミニウム。鉄に変わる自動車の軽量化素材の一番手として注目を集め、エンジンやホイールなどの自動車部品のほか、フードなどのパネル材でも従来の軟鋼からアルミへの置き換えが進んでいる。欧米など環境規制の厳格化もアルミ採用の追い風となっている。アルミ化の波が押し寄せようとしている。
 
 【大型化と両立】
 7月に発売された新型ベンツ「Cクラス」。大型化と軽量化を両立し、ボディーのアルミ使用率が約50%と高いアルミ化率が特徴だ。神戸製鋼所の槙井浩一技術開発本部マルチマテリアル構造・接合研究室長は「400万円台の価格帯で常識を覆すようなアルミ化率だ」と解説する。
 これまで50%を超えるアルミ化率を持つ車種は1000万円超の超高級車が中心。槙井室長は「今後Cクラス並みに車体の半分がアルミになる時代が来るかもしれない」と予見する。
 自動車全体へのアルミの使用量は年々増加傾向にある。日本アルミニウム協会の調べでは自動車1台当たりのアルミの使用量は約160キログラム。全体の1割強でアルミが使われている計算だ。ただ従来はエンジンブロックなどダイカストや鋳造品が中心。フードやドアなどパネル材にどこまで採用されるかがテーマだ。
 単純にパネル材を軟鋼からアルミに置き換えれば重さは半分程度になる。これまで鋼材を高強度化し薄肉化して軽量化してきたが、「鋼板を使いこなすことによる軽量化はそろそろ限界に来ている」(関係者)。パネル材のアルミ化は燃費規制が厳しい欧州で先行していたが、米国の企業平均燃費(CAFE)規制が段階的に強化され、素材そのものが軽いアルミが注目されている。

 【成形性に弱み】
 ネックとなるのは成形性とコストだ。アルミは鉄に比べて成形性で劣る。プレス加工などでは深絞りがしにくく、シワや破断も発生しやすい。加工条件や金型などの調整が必要となるが、高温にすると成形性が高まるアルミの特性を生かして、高温成形などの採用も有力な選択肢だ。
 アルミのコストは鉄の数倍と言われる。原料となる地金が高く、素材コストを劇的に安くするのは難しい。アルミ缶のようにリサイクルを普及させ、新地金の使用量を減らせられるかがコスト低減のカギだ。まだ使用量が少なく、リサイクルは実用段階ではないが他の軽量化素材と競合する上での選択肢にはなり得る。
 90年代にアルミ車が世界でブームとなり、日本でもホンダの「NSX」などオールアルミ車が市場投入された。だが日本では普及しなかった。コストの高さに加えて高品質の鋼材が入手しやすいこともあり、「自動車メーカーからそこまでアルミ化が要求をされていなかった」(関係者)背景がある。 

 【コストバランス】
 地球温暖化対策で車体軽量化は待ったなしだ。ただ軽量化素材であるアルミを使うかは結局は軽量化とコストとのバランス。高級車や大衆車、軽自動車。またハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)など車種に合わせて鉄とアルミの使用比率は分かれ、多様な構造となるのが現実的だ。
 UACJの戸次洋一郎技術開発研究所名古屋センター長も「アルミの自動車向けへの素材開発はほぼ終え、いまはどう使うかというアプリケーション(応用技術)の開発に重点を置いている。欲しいと言われた時にすぐに技術を出せるように技術の“手の内化”を進める」と話す。環境規制が一段と強化される見通しで、次世代車への採用拡大を虎視眈々(たんたん)と狙っている。
日刊工業新聞2014年09月01日 モノづくり面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
米国での自動車パネル用アルミ板材の需要は2020年に現在の10倍に拡大するという試算がある。世界のアルミメーカーが現地で生産拠点を増強していることからも自動車メーカーの本気度がわかる。

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