雲研究者が語る、防災意識の育み方

『雲を愛する技術』著者・荒木健太郎氏インタビュー

雲研究者・荒木健太郎氏 

―2018年は西日本豪雨、台風21号など自然災害が相次ぎました。 「『まさかこんなことが起こるとは思ってもみなかった』。災害の現場では、この言葉を必ずと言ってよいほど耳にする。思い出すのは鬼怒川が氾濫し、大きな水害をもたらした15年9月の関東・東北豪雨。被災地は自分が講演した地域も含んだ。日頃の災害への備えが大切と伝えたが、水害発生後、講演に参加した人から聞いたのは、まさにこの言葉だった」 ―いざという時の備えは目前に危機が迫っていない分、忘れがちになります。 「少しでも備えがあれば、初動がまったく変わってくる。それが生死を分ける境目になることすらありうる。備えが忘れがちになるのは、促されてから準備するという受け身の姿勢になるからだろう。そのせいで防災への意識は長続きしにくい」 ―受け身の姿勢を具体的にいうと。 「例えば講演で話を聞き、その時は『気を付けなければ』『防災に努めなければ』と思う。ただ、それは促された結果であって自発的なものではない。そのため、次第に防災への思いが薄れてしまう。気持ちを長続きさせるには、楽しむという感覚が欠かせない」 ―そこに雲がどう関わってくるのですか。 「空や雲から天気を予測することは『観天望気』と呼ばれ、科学的根拠があるものも多い。その雲がどんな種類で、どんな気象の予兆を示しているのかなどを知れば、能動的な防災につながる。それ以前に、雲はいろんな姿・形をしており、見るだけで楽しめる」 「いつもと違う怪しい雲だなと思った場合、一般に公開されているレーダーなどの気象観測情報を確認するようになればいい。そこで雲の流れなどが分かるので、この先の天気が予想できるようになる。そうした行動の積み重ねが防災につながっていくはずだ」 ―雲の写真を自身のツイッターで日々更新しています。 「雲に関心を持つ入り口になればいいと思って更新している。自ら雲の写真を掲載する人たちが増えればうれしいし、増えつつあるという手応えもある。雲がどんどん気になるようになり、いつの間にか、防災の知識が身についているというのが理想の形だ」 「雲への興味を共有できる人たちを“雲友”と呼んでいる。この本の制作には、たくさんの一般の雲友から協力を得た。販売前の先読みに参加し、助言をもらうなどした。雲友には会員制交流サイト(SNS)などを通じて雲の写真を提供してもらい、気象研究に役立てている」 ―一般の人たちと一緒になって研究を進める“シチズン・サイエンス”ですね。 「シチズン・サイエンスでいえば、首都圏の降雪現象の実態解明を目指す『関東雪結晶プロジェクト』も進めている。この計画では、ひと冬で雪の結晶の写真が1万枚以上集まった。それを解析し、雪の結晶の変化から雲の特性の変化を初めて観測する成果も得た。この計画は19年度以降も続く」 (文・碩靖俊) ◇荒木健太郎(あらき・けんたろう)氏 雲研究者、気象庁気象研究所予報研究部研究官 08年(平20)気象大学校卒、同年気象庁入庁、新潟地方気象台観測予報課。10年銚子地方気象台技術課、12年気象研究所物理気象研究部第一研究室、13年同予報研究部第四研究室、15年同予報研究部第三研究室。茨城県出身、34歳。 『雲を愛する技術』(光文社 03・5395・8289

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