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中小企業再生の“カリスマ”が経営者に伝えたいこと

『会社は生き返る カリスマドクターによる中小企業再生の記録』の著者、藤原敬三氏インタビュー
中小企業再生の“カリスマ”が経営者に伝えたいこと

東京都中小企業再生支援協議会顧問、中小企業再生支援全国本部顧問・藤原敬三氏

―数多くの中小企業の再生に携わってこられました。著書はその「集大成」ですね。

「不良債権処理が主流だった中小企業再生は、この10年あまりで様変わりした。私が一貫して目指してきた『事業再生』の発想は定着し、金融支援の手法も充実してきたことに手応えを感じている。一方、いまなお経営に行き詰まる企業がある背景には『早期発見、早期再生着手』の重要性が経営者に十分伝わっていない事実があると感じる。その意義を伝えることが残された最後の仕事と考えた」

―東京都中小企業再生支援協議会の統括責任者時代に支援に携わられた69社の「その後」が紹介されています。

「いずれも相談に来られた時の経営状況は厳しかったが再生を果たしただけでなく、7割の企業は、債務超過の解消あるいは継続的な経常黒字を達成し完全復活を遂げている。本書では特に5社の軌跡を取り上げた」

―成功事例は幸運が重なった希有(けう)な例ではありませんか。

「運だけではない。共通するのは、再建に対する経営者の執念や真摯(しんし)な姿勢。企業再生は事務的な処理だけで進むわけではない。その過程では人間模様が交錯し、感情を含めた複雑な状況の中で結果が変わっていく。その中心にいる経営者の『覚悟』こそが再生の原動力となることを伝えたかった」

―まもなく平成の時代が終わります。中小企業にとってこの30年は何だったのでしょう。

「バブル経済の後遺症に苦しんだ時期を経て、その後も抜本的な改革を先送りしたまま現在に至る企業は少なくない。中小企業金融円滑化法も経営者の自助努力を弱めてしまった面は否めない。ところが一転、現在は『生産性向上』が声高に叫ばれる。こうした風潮に違和感を覚える」

―違和感とは。

「必ずしも高い利益率を上げていなくても、雇用や納税といった社会的責任を果たしていれば立派な会社ではないか。地域に根ざし、事業を営む企業をもっともり立てるような日本であってほしい」

―全国の再生支援協議会を支援する全国本部の初代責任者としての歩みを振り返ると。初めてお会いしたのは金融円滑化法の終了を控え、政府から再生支援を加速するよう求められていた時期です。

「あの頃は辛かった。支援手続きを簡素化し、多くの案件に対応するよう求められた当時は、これまで培ってきた再生支援手法が根底から否定されたような気持ちになったのは事実。しかし発想を転換し、500を超える日本中の金融機関と接点を持ち、地域活性化に不可欠な事業再生に対する共通認識を醸成しようと考えた。悪いことばかりではなかった」

―協議会の今後にどう期待しますか。

「中小企業の再生は人間の病気治療と同じ。不調を感じたら病院にかかるように企業経営も『早期発見・早期再生着手』が重要だ。全国の再生支援協議会が中小企業にとっての『総合病院』であることに変わりはない。重要なのは、そこで治療する『医者』の治療技術も含めた『質』。経営者の思いに寄り添う支援のあり方は伝え続けたい」(編集委員・神崎明子)

◇藤原敬三(ふじわら・けいぞう)氏 東京都中小企業再生支援協議会顧問、中小企業再生支援全国本部顧問
76年(昭51)神戸大経卒、同年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。03年東京都中小企業再生支援協議会統括責任者、07年全国本部統括責任者、17年4月より現職。東京都出身、65歳。

『会社は生き返る カリスマドクターによる中小企業再生の記録』(日刊工業新聞社刊、03・5644・7490)
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藤原氏
日刊工業新聞2018年11月19日

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