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「MR、まだ多い」…。転機の製薬業界、人員削減続く

成長分野への再配置カギに
「MR、まだ多い」…。転機の製薬業界、人員削減続く

製薬企業が行ってきた業務を請け負うビジネスが伸びる可能性も(写真はイメージ)

 製薬業界で従業員の削減や再配置を実行・検討する動きが依然として続いている。薬価引き下げや後発医薬品の普及、営業関連の規制強化といった環境変化が背景にある。各社は単に人員構成を変えるだけでなく、成長が期待できる事業領域をどう伸ばすかが問われる。一方で、製薬企業の行ってきた業務を受託するビジネスが伸びる可能性もありそうだ。

 「影響しないようにしていく」。大正製薬ホールディングス(HD)の北谷脩執行役員は、早期退職の実施に伴う人員減が現在の事業に影響しないかと問われてこう答えた。

 同社は7月に創業以来初の早期退職を募集し、グループ従業員の約15%に当たる948人が応募。この数が予想通りだったかについて北谷執行役員は「想定人数は明確に決めていなかった」と話すが、短期的には人員の配置に悩む場面が出る可能性も考えられる。

 加えて、中長期の成長に必要な人材をどう確保・育成するかも問われる。同社は一般用医薬品などを扱うセルフメディケーション事業で主力のドリンク剤「リポビタン」が苦戦。医療用医薬品事業は業界共通の課題でもある薬価引き下げや後発品の浸透に伴う収益性悪化に悩まされている。

 打開策としては例えば海外向け一般薬事業のような、伸びしろが期待できる分野の深掘りが求められる。上原健取締役は「ここを良いチャンスと捉えて、業務の改革や、新しいやり方に必要な人材の確保をやっていく」と気を引き締める。

 業績が比較的好調な企業でも人員構成見直しの動きがある。塩野義製薬の手代木功社長は「現時点で早期退職の必要性は考えていない」としつつも、医薬情報担当者(MR)の数については「今は1000人プラスαだが、まだ少し多い。何年かかけて社内で再配置する」と話す。

 MR認定センターが2015年5月にまとめた報告によると、医療機関の97・2%でMRの訪問を規制する何らかの枠組みが存在する。

 医師や薬剤師の多忙や、製薬企業との癒着防止などが理由に挙がっている。こうした背景から、ITを活用した情報提供も進んできた。塩野義の手代木社長は「開業医中心に対面で話す重要度はまだまだある」と分析する一方、「800―900人(のMR)で何とかカバーできないか」と考えている。

 製薬業界のMRが減れば、MRのやってきた業務を請け負うビジネスが伸びるかもしれない。医薬品卸大手メディパルHDは営業部隊にMR資格の取得を奨励し、医療用医薬品の製造販売後調査(PMS)を受託する事業に取り組んできた。

 同社は19年3月期にPMS事業の売上総利益を11億円にする計画を掲げるが、18年4―9月実績は3億円にとどまる。依田俊英専務は「ニーズは非常に高く引き合いも多いが、(新規案件の)契約までにかなり時間がかかる」とし、中長期の成長に期待をかける。

 医薬品産業を取り巻く環境の変化は今後も続くとみられる。メーカーも受託事業者も、変化に対応できる組織づくりが試される。
                    

(文=斎藤弘和)

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