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面倒なお役所手続きから解放!“デジタル行政改革"はどこまで進むか

 デジタルテクノロジーの活用を通じ経済活動や生活の変革が進むなか、行政もデジタル化に向けた取り組みが進行中だ。政府は、行政手続きを電子的に行えることを原則とする法案を検討しているほか、国民のニーズを反映したシステム開発やデータの利活用を促すため、専門家を民間から積極登用するなどの取り組みを進めている。その「先兵」として自己変革に挑むのが経済産業省。その取り組みの背景を紹介する。

「ワンストップ・ワンスオンリー」のサービスへ


 経済産業省は2018年7月に「デジタル・トランスメーションオフィス(DX室)」を新設した。デジタルを前提に法人向け行政サービスの利便性を高め、データに基づいた政策立案やサービス向上を組織的に進める実働部隊である。

 「政府はいまや一番のお荷物になっていると言っても過言ではない」―。DX室新設の裏には、こんな問題意識がある。いまや日常生活で利用するサービスがスマートフォンで完結するのが当たり前の時代。それなのに行政手続きは、いまだ大量の紙の資料や窓口での対面手続きが中心。手続き完了までの長い時間など多くの負担を国民に強いている。

 申請に必要な添付書類を揃えるため、役所の窓口をいくつも回る―。窓口は混雑しており、開庁時間に合わせて何度も足を運ぶのは困難。こんな不便な思いをした経験を持つ人は決して少なくないだろう。

 例えば補助金申請。法務局で登記事項証明をもらい、申請書類を揃えて担当省庁の窓口を訪問。審査を待ち、交付が決定されたら同じ窓口を再度訪問といった具合に、必要なタイミングですぐに支援が得られる仕組みになっていない。

 いま、政府が進めるのは、行政手続き自体を簡素化し、ユーザーの視点から手続きの体験を改善することだ。オンラインでひとつのサイトに行けば行政手続きが完結する「ワンストップ」や、一度行政に提出した情報は二度記載する必要がない「ワンスオンリー」などの実現がその一例である。これらはユーザーの利便性を向上するだけでなく、実は行政側にとっても手続きの効率化を通じた働き方改革につながる。
               
 

データに基づくサービス変革へ


 世界的に加速するデジタル化の流れも改革の原動力だ。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドットコム)と呼ばれる巨大プラットフォーマーがこれをリードし、膨大なデータ分析の中からユーザーに利用しやすいサービスを開発する。

 この考え方は政策立案にも適用可能だ。行政サービスの利用者である企業や国民による申請情報の中には、さまざまな政策立案のヒントが宿る。

 これらを分析することで、より付加価値の高い施策が立案できる可能性を秘めている。加えて、ユーザーに応じて必要なサービスをプッシュ型でリコメンド(推奨)するようなことも可能になる。

 DXに対しては、経済界も大きな期待を寄せる。NECの遠藤信博会長は「DXで得られる価値は企業や行政単位の部分最適ではなく、国家レベルで創造する努力が欠かせない」と指摘。「膨大なデータが経済成長を牽引するデジタル時代において、日本が国際競争力を保つには政府の主導力が問われる」とその意義を強調する。

 官民がデータを共有して活用できれば、社会的にもより効率的に利便性の高いサービスを提供できる可能性が広がる。

過去の議論を乗り越えて


 行政手続きの電子化をめぐっては、過去にもさまざまな構想や計画が打ち出されてきた。とりわけ多くの人の記憶に新しいのは、2001年に打ち出された「e-Japan戦略」ではなかろうか。世界最先端のIT国家実現を目指した構想である。

 これまでの行政の取り組みは、すでにある行政手続きをそのまま電子化するケースが多かった。しかし、いま政府が目指すのは、行政のあり方そのものを利用者目線で見直すことで利用者の満足度を高めること。さらにデータやサービスが有機的に連携することで新たな付加価値を創出する社会を整備することだ。

 政府が2018年1月に策定した「デジタル・ガバメント実行計画」では、行政手続きを原則、電子申請とすることで利用者が時間や場所を問わず行政サービスを受けられるようにすることや、これに関連する制度や法令を見直し、行政手続きに必要だった添付書類の撤廃を盛り込んでいる。また、デジタルを前提として、手続きに合った本人確認の手法を採用する方針だ。
 

 経済産業省は、複数の法人向け行政手続きをひとつのIDで申請できる法人共通認証基盤の構築や補助金申請システムの開発を進める。2019年度から経産省の行政手続きで試行し、20年度から他府省の行政手続きにも展開することを目指す。これらの取り組みを通じて、法人向けの行政手続きを最終的にはすべてデジタルで完結する法人デジタルプラットフォームを構築する。

 「デジタル・ガバメント実行計画」では、利用者中心の行政サービス改革に取り組むにあたり、これまでの施策についても「検証」している。

 ブロードバンド環境などインフラ整備は大きく進展したものの、「各種申請手続きのユーザービリティーの向上やビジネス環境の改善など利用者の具体的価値という点において、必ずしも十分な効果を上げてきたとは言い難い」と言及。その上で、デジタル化そのものが目的ではなく、利用者のニーズから出発するサービスデザイン志向を具体化する考え方をあらためて示している。
 
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
こうした「新機軸」を経産省はどのような推進体制、人材によって実現しようとしているのか。次回は「霞が関文化」の改革に挑むDX室の取り組みを紹介する。

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