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医療事業は柱になるか!? デジカメ一本足から脱却図るニコンの本気度

細胞受託で世界最大手と提携。市場は「ニコンがやる必然性が薄い」という声も
医療事業は柱になるか!? デジカメ一本足から脱却図るニコンの本気度

ニコンはデジカメの次の一歩を踏み出した

 ニコンが売上高の約7割を占めるデジタルカメラ事業への依存から脱却しようと、もがいている。2014年に医療分野への本格参入を表明し、動きを活発化。5月に再生医療用細胞の生産で世界最大手のスイス・ロンザと提携し、細胞受託製造を始めると発表するなど、幹細胞事業では徐々にその端緒が見えてきた。ただ、市場は懐疑的な見方が大勢を占める。ニコンはいかにして、次の経営の柱を育てるのか。

 「10年前から考えてきた」-。幹細胞事業を統括する中村温巳執行役員マイクロスコープ・ソリューション事業部長は、事業の進捗はほぼ計画通りだと自信をみせる。13年にiPS細胞を使った眼科の難治性疾患「加齢黄斑変性」の治療薬を開発するベンチャー企業、ヘリオスに出資した時から、その構想はあった。

 描いている姿はこうだ。ヘリオスとの協業で進める細胞培養装置の開発から、大量生産や細胞画像評価のノウハウを取得。加えてロンザとの提携で始める再生医療向け細胞の受託生産で、培養ノウハウを蓄積する。将来的には観察技術で強みを持つ既存の顕微鏡事業と組み合わせ、細胞を効率的に生産するための手法を、トータルソリューションとして販売する。試薬メーカーなど関連する企業との協業も検討していく。

 5月には受託細胞生産を手がける子会社「ニコン・セル・イノベーション」を設立、第一歩を踏み出した。再生医療関連の事業はコストも膨大だが「細胞受託生産事業は、最初から利益性に目をつむるようなビジネスではない」(中村部長)。18年3月期には数億円規模の売り上げを目指す。中村部長は「細胞生産プロトコル全体をニコンで手がけたい」と、力を込める。

 ニコンが医療事業に触手を伸ばす背景には、主力のデジタルカメラ市場の不振がある。スマートフォンとの競合で市場縮小が続くコンパクトデジカメに加え、聖域と見られてきたレンズ交換式カメラの市場も13年に出荷台数が減少に転じた。半導体製造装置事業も急拡大は見込めない。ポテンシャルが大きい医療分野を成長ドライバーに、新たな柱の育成を急ぐ。

 しかし市場の見方は厳しい。医療事業関連の動きについて、ある証券アナリストは「ニコンでなければならない必然性が薄く、プラス評価は難しい」と話す。本業のデジカメの立て直しが最優先だとの声も根強い。

 5月に策定した中期経営計画では、毎年行っていた中計の見直しをやめて、3年間、目標数値を据え置く方針を示した。ニコンの本気度は伝わるのか。そのためにも、医療分野で早期に成果を示すことが不可欠だ。
日刊工業新聞2015年07月28日 電機・電子部品・情報・通信面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
デジカメ市場の当面の成長が見込めない以上、次の柱を打ち出すのは当然のこと。ただ医療分野への進出は何年も前から打ち出していただけに、「動きが鈍いのではないか」というのが市場の評価の裏側にある。もちろん本業のカメラでは稼ぐための魅力的な商品が不可欠で、こちらにも投資が必要だ(16年3月期、17年3月期は先行投資を行うと表明している)。経営にはよりバランスが求められる。この局面を乗り切るには、牛田一雄社長がかねてから口にする「トランスフォーム」を内部から実行するしかないだろう。

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