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住宅向け地中熱利用システム、低コスト化で普及進むか

日大が開発、本格受注へ
 住宅用地中熱システムの普及を目指す浅層地中熱利用事業組合(鈴木晃代表理事=アイワコーポ〈福島県郡山市〉社長)が、本格的な受注活動に乗り出した。システム開発を担当したのは日本大学工学部。日本で住宅向け地中熱利用が進まない最大の課題である熱供給システムのコストの高さを、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業を通じて改善した。低コストの集中型冷暖房システムとして全国で受注活動を進め、まず年間1万件の普及を目指す。

 日大工学部が開発したシステムの熱交換器は2重管方式。内管と外管で構成し、間を流れる流体と土壌が熱交換する。施工法には「回転埋設工法」という新たな方式を採用。地下平均10メートルに地中熱交換器で使用する鋼管を回転させながら埋設することで、埋設作業と設置作業を同時に済ませられる。この施工により、10メートルの深さで地中熱を年間に渡りユーザーがバランス良く運用でき、コストダウンにもつながると日大工学部は判断する。

 事業化に当たっては、出力5キロワットクラスのシステムを設計・施工する。2メートル間隔で熱交換器を設置、地下10メートルでは10本を配置する。地中熱を使う冷暖房用室内機群と連携するヒートポンプの制御システムも開発した。「実際に施工した結果、トータルコストで従来より40%削減を実現できた」(柿崎隆夫日大工学部教授)。

 欧州連合(EU)では、住宅向けの地中熱利用システムが年間100万件単位で普及している。EUは地中熱を集中冷暖房のお湯で利用するのが一般的で、安定した地下層が低コストな掘削を実現している。日本は年間300件程度で、累積でも2500件未満の状況にとどまる。

 今回開発したシステムでは、量産効果も加味し、トータル150万円程度で納められると見ている。ほぼEUのトータルコストに並ぶこととなる。

 この技術開発を受け、アイワコーポと群馬電機(群馬県みどり市)、中央開発(東京都新宿区)が中核となって発足したのが浅層地中熱利用事業組合だ。3社のほか福島地下開発(福島県郡山市)、日曹商事(東京都中央区)、浪速試錐工業所(大阪府松原市)、サンポット、東京電力ホールディングス(HD)など計12社が参画。全国の一般住宅クラスへ地中熱利用と未利用熱利用の事業展開に乗り出した。

 室内機は三菱電機製を改造した独自の機器を導入。ヒートポンプはサンポットが同システム向けの仕様として納めるなど、機器は組合企業の製品を使用する。今夏には経済産業省から採択を受け、機器と施工、メンテナンスの標準化にも乗り出している。鈴木代表理事は「企業のネットワークを構築して、機器・施工の標準化を進め、一層のコストダウンを進める」と、標準化は普及への大きな課題と指摘する。

 受注活動はこれから本格化する。日大工学部が、地中熱システムの設計とエンジニアリングを担う企業を発足させる計画もある。この企業と組合が設計を共有化して組合側は営業活動と、機器の供給、施工業務に当たる。組合は2019年度以降には全国に各支部を順次設けるなどして、支部ごとの展開も進めていく。

 

(文=駒橋徐)
日刊工業新聞2018年10月11日

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