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“IT車いす”普及促進−ドコモが気鋭のベンチャーと協業

WHILLの電動車いすを改良し、地域内でシェアサービス開始
“IT車いす”普及促進−ドコモが気鋭のベンチャーと協業

WHILLの次世代型電動車いすに通信やGPS機能を搭載

 NTTドコモは、通信機能を持たせた個人用電動車両のシェアリング事業の普及、拡大に乗り出す。次世代型電動車いすの開発を手がけるベンチャー企業などと協業し、通信と乗り物をつなぎ、利用者が車道や歩道を安全に移動できる環境を提供する。主力の携帯電話の市場が成熟期に移行する中で、モノやヒトなどを通信で結ぶ新領域として「モノのインターネット(IoT)」分野を開拓。将来の収益源の一つに育てる考えだ。(清水耕一郎)

 【シェア推進】
 ドコモは1日から企業や自治体向けに、個人用の電動車両を地域などで共有するシェアリングサービスを始める。ベンチャー企業のWHILL(ウィル、横浜市鶴見区、杉江理最高経営責任者、045・633・1471)の次世代型電動車いす「WHILL Model(ウィル モデル)A」に通信機能や全地球測位システム(GPS)機能、遠隔制御機能を搭載する“IT車いす”だ。

 電動車いすの位置情報や貸し出し、返却状況、バッテリー残量を把握できる。利用する際は電動車いすに搭載したカードリーダーにスマートフォンなどをかざせば、その場で貸し出しや返却ができる。電動車いすは通常の車いすと比べて格段に高価。個人が所有するには経済的な負担が重い。そこで、シェアリングサービスの特徴を組み合わせ、地域生活などに密着させる狙いだ。

 【坂道も走行】
 電動車いすは、タイヤを構成する24個の独立した小さなタイヤがその場での回転や、小回りの利く細やかな方向転換を可能にした。4輪駆動でこれまで車いすで移動できなかった坂道や砂利道での走行ができる。最高速度は時速6キロメートルで、5時間の充電で20キロメートル走ることができる。

 ドコモはさらに、1日から都内の晴海エリアでロボット技術のRT.ワークス(河野誠代表、大阪市東成区、06・6975・6650)が開発したセンサーで自動制御する電動歩行アシストカート、自動車部品メーカーである片山工業(岡山県井原市、片山昌之社長、0866・62・1080)の電動立踏み式自転車の実証をそれぞれ開始。
 超小型電気自動車(EV)の導入も視野に、シェアする乗り物のラインアップを順次拡充する。いずれも、シェアリングサービスの電動車いすと利用の仕組みは同じ。今後は、乗り物本体に衝突回避や利用者の走行履歴の分析といった機能も追加する。

 【クルマに代替】
 少子高齢化による人口構造の変化を踏まえ、電動車いすなどを中心に高齢者や足が不自由な人に訴求する。さらに、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックへの対応も想定。訪日旅行者(インバウンド)で国内に外国人が増加することを見据え、会場がある周辺の地域で気軽に利用できる“電動モビリティー”のシェアリングサービスを軌道に乗せる考えだ。
 ドコモの中山俊樹取締役は「(東京五輪)会期中はクルマの走行が限られるため、五輪会場の近くまでクルマで移動し、そこから会場内の移動手段として電動車いすなどをシェアする環境をつくる」と状況に応じた利用環境の提供を見据える。

 20年の個人用の電動乗り物市場は15年比2・5倍の1500億円と大幅に拡大すると予測する。ドコモは、その1割にあたる150億円程度の売り上げを目指していく。
 主力の携帯販売に大きな伸びが期待できない今、通信と乗り物を融合し企業間から消費者へ向かうBツーBツーC市場で新たなビジネスモデルを構築し、次代の成長を描く。
日刊工業新聞2015年04月01日 電機・電子部品・情報・通信面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
通信プラットフォームでハードを結び、サービス全体を提供する好例。カーシェアリングが普及してきているので、車いすシェアも普及するといいと思います。

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