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米国から見えてきた工作機械「新時代」

ITとの垣根低く、大きな連合が目の前に
米国から見えてきた工作機械「新時代」

国際製造技術展〈IMTS〉2018

 金属加工が新たな時代の幕開けを迎えた。人手を省いて精度良く、速く、少量を多品種に作るという工作機械独自の進化と並行し、IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)に代表されるITとの融合が急速に進み、化学反応が起ころうとしている。長く同じ顔ぶれの工作機械産業に、IT関連の世界大手やスタートアップ企業などが多く見られるようになった。貿易摩擦の舞台でもある米国は、「NewEra(新時代)」の最前線といった様相で、変化にあふれている。

 機械に話しかける。牧野フライス製作所の技術者が文字通り、工作機械に話しかけると、機械が作動した。米国のスタートアップ企業が開発した装置「ATHENA」を搭載し、口頭で機械を操作できる。まだ使える範囲は限られるようだが、ATHENAを使えば、作業者は工作機械を制御するプログラムのコードを用いずに、言葉でこと足りる。人手不足の現場で非熟練者が機械を使うことや、熟練者でも手がふさがった状況で仕事をする場面など、多様な恩恵がありそうだ。

 ATHENAは牧野フライス専用の装置ではない。9月中旬に米シカゴで開かれた「国際製造技術展(IMTS)2018」では牧野フライスのほか、DMG森精機、OKKなどの工作機械にも採用された。

 「米アマゾンのAIスピーカーってどうなの?」―。2017年10月に開かれたエレクトロニクス展示会「CEATEC(シーテック)ジャパン2017」の会場で、ジェイテクトの井坂雅一副社長(当時)は、操作装置としてAIスピーカーの可能性に思いを巡らせていた。すでに部分的ではあるが、ほぼ現実になった。

 金属加工は力を加えて変形させて形を作る工法や、日本の工作機械の定義である、材料を除去して形にする工法がある。金属材料を積み上げていく積層造形(AM)は新分野。ここには新顔がそろい、勢いもある。

 最も新しく、巨大なのは米HPだ。17年に樹脂の3Dプリンターを投入したのに続き、9月10日には同社初の金属3Dプリンターを発売し、金属AM分野に参入した。2Dプリンターのノズル技術を応用するなどで従来方式比で50倍もの高生産性をうたう。

 金属粉に結合剤をかけて固め、後で同剤を蒸発させるなどの独自の工法を編み出した。前工程の造形はプリンター、後工程の仕上げは他社の工作機械とすみわけ、新しい金属加工を普及させる。

 IMTSには米マイクロソフトなどの姿もあった。山崎智久ヤマザキマザック社長は「工場をスマート化するにはITに加え、我々のOT(オペレーション・テクノロジー)の両方が必要」と互いの強みを持ち寄った連携が要だと訴える。関係者によると、シリコンバレー系のスタートアップ企業による工作機械メーカーへの売り込みも盛んだったという。

 IoTが製造業に欠かせないインフラになれば、工作機械や周辺装置、生産ラインをつかさどるソフトウエアの重要度が飛躍的に高まる。機械を販売した後のアフターサービスの重みも増す。

 DMG森精機は米国でソフトを中心にしたサービス会社「STS」を立ち上げた。顧客が更新された最新版のソフトを使い、常に最適な生産ができるように働きかける。

 一般的に、これまで工作機械のサービスは、機械本体や加工のサポートが中心であり、メーカーの担当者であってもソフトの優先度は低かった。新時代を見据えれば、ソフトの位置付けを高めるように見方を変える必要がある。

 STSはグループ内での従業員教育などを通じ、ソフトの重要性を再認識させる活動も行う。最新版ソフトの無償提供を含む保守サービスプログラム「セロスクラブ」の普及につなげる考えだ。

 ジェイテクトは工作機械など生産設備全般の補給部品のインターネット販売に注力している。日本勢はサービス力に定評があり、顧客の利便性を高める同サービスを追加し、「中国・韓国勢との差別化ポイント」(貝嶋博幸専務)を増やす。

 工作機械、ITといった業種の垣根はすでに低く、これを乗り越えた大きな連合が目の前にある。
日刊工業新聞2018年9月24日/28日
六笠友和
六笠友和 Mukasa Tomokazu 編集局経済部 編集委員
 新しいサービスモデルなど新時代の足場固めが着々と進む中、懸念されるのが米国の市況の行方だ。日本工作機械工業会(日工会)の統計(2017年)によると、日本メーカーにとっての米国は、日本、中国に次ぐ第3位の市場だ。米中貿易摩擦による中国需要の減少が鮮明になる中で、その重要性はなおさら高まる。  先行きは「まだ需要が下がってきている感じはないが、(米国の工業会によると)19年の第1四半期(1―3月)から変わってくるのではないかという話だ」(山崎智久ヤマザキマザック社長)と高原状態が一服するとの見方がある。一方、「国内総生産(GDP)を見ても、工作機械を含む産業機械関係の需要は当面緩やかな上り基調が続く」(日本精工の米国現地法人幹部)との声もあがる。日本勢にとっては、日米貿易協議の結果によるところも大きい。  ただ、短期的な受注の山谷はあっても、米国はIoT、積層造形(AM)、自動化の意欲が高い国であり、これらを支える協力企業に恵まれる。米国顧客の要求から開発した技術、製品、サービスモデルが、日本を含めた世界市場に加速度的に広まりそうだ。

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