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日本のアニメとコラボレーション!ルクセンブルクの観光戦略

経済省観光担当局長に狙いを聞く
日本のアニメとコラボレーション!ルクセンブルクの観光戦略

リッキー・ウォール氏

 ルクセンブルクが日本人向けの観光プロモーションに力を入れている。日本観光振興協会などが9月20-23日に東京で開催した世界最大級の観光情報発信イベント「ツーリズムEXPOジャパン2018」では、日本のアニメーション作品とコラボレーションをするなど新しい取り組みにも挑戦している。神奈川県とほぼ同じ面積の小国として有名な同国が観光業に力を注ぐ狙いやその戦略を、ルクセンブルク経済省観光担当局長のリッキー・ウォール氏に聞いた。

-日本人向けのプロモーションに力を入れています。
 「日本人観光客の年間宿泊客数は1万500人(2017年)で、前年と比べて8%増加した。ルクセンブルクは小さな国なので、受け入れ能力を超える呼び込みはできない。プロモーションの相手は考えて選んでおり、日本はアジア市場の中でも特に重要なマーケットと見ている」

-今回、日本のアニメ※とコラボレーションした狙いは何ですか。
「現状、ルクセンブルクに訪れる日本人の年齢層は高めだが、アニメをきっかけにもっと若い層にも興味を持ってほしいと考えたためだ。文化間のつながりを手がかりに、人を引きつけるプロモーションをする必要があった。自力で人々の注目を集めるのは小国にとって簡単なことではない。ルクセンブルクには昔から日本のアニメが放送されていたから、今回はそれが両国をつなげるきっかけになった」

※「多田君は恋をしない」。2018年4-6月に国内のテレビで放送され、インターネットでも配信された。日本の高校生とヨーロッパから来た留学生の写真を通した交流を描く。留学生の故郷はルクセンブルクがモデル。


-ヨーロッパには人気の観光地が多くあります。その中でも、ルクセンブルクの魅力や強みは何ですか。
「まず面積が小さな国であることが強みだ。パリやロンドンも確かに魅力的な観光地だが、ルクセンブルクのように都市以外の地域も手軽に楽しむことは難しい。ルクセンブルクなら1時間もあれば車で南北を縦断できるし、公共交通機関も十分に整備されている。周辺国からのアクセスがいいことは、国際会議や展示会といったMICEの誘致でも有利に働いている」

「さらに、海外の複数の民間会社による調査で治安の高さが証明されている。国民の衛生観念も高く、これらの点は日本とも共通しているのではないか。料理もルクセンブルクの大きな魅力の一つ。特徴としては、ドイツの量とフランスの繊細さを兼ね備えている。ミシュランの星がついている店は12店にのぼり、国民1人当たりに対して星の数は世界一を誇る」

「ただ、本音を言うともっと長い時間をルクセンブルクで過ごしてほしい。現時点で、ルクセンブルクを訪れる人の半分以上はビジネス目的。その他には、周辺国への旅行と兼ねて訪れる人も多い。滞在時間は平均で約2日程度だが、都市部以外の魅力も堪能するには時間が足りない。都市部にある世界遺産の城塞(じょうさい)や歴史的な建造物もいいが、田園地域まで足を伸ばせばアウトドアのアクティビティもそろっているし、田舎で宿泊体験を楽しむこともできる。現在は代理店と協力して、日本人観光客向けに5日間の旅行プランの提案を始めている」

-宿泊施設や交通網など、観光客の受け入れ態勢は整っていますか。
「ルクセンブルクでは、観光業の振興を進めるために5カ年計画を立てて法律を整備している。宿泊施設の受け入れの能力については、今後5年で15%増やす計画だ。現在も政府や市町、民間を挙げてホテルの建設を支援しており、環境保全に配慮しながらホテルやユースホステル、キャンプ場の整備を進めている。特に、若い層はユースホステルの利用が多い。歴史的な修道院を改修したユースホステルには世界から多くの人が集まっている」

-MICEの誘致にも力を入れています。
「MICE関連の来訪者数は15%近くを占める。国際会議協会(ICCA)の統計によると、国際会議の開催数でルクセンブルクは68番目。今後5-10年で50番以内に入ることを目指す。16年から始めた『ミート・ルクセンブルク』という活動では、大公殿下や総理大臣がMICE支援を広くアピールしている。インフラの柔軟性を高めるため、会議施設も新たに建設中だ」

-ルクセンブルクにとって観光産業の発展は国の成長戦略上どのような位置づけをしていますか。
「国内産業の中核はいまだに金融業が担っているが、観光業の国内総生産への貢献割合は4.5%(13年)から6%にまで伸びた。ルクセンブルクが進めている産業の多角化に観光業が貢献できていると言える。観光業は学歴に左右されない広い雇用機会を生み出し、失業率の低下にも貢献する。ホテル関連のビジネススキルや職業に関する学校もあり、特に料理人については世界でも活躍できる才能を送り出している」
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ウォール氏によると、国民の多くが多言語話者であることも観光産業の発展に有利に働いているとのこと。キャッシュレスも浸透しており、住民・観光客両方の利便性を高めるためにサービス向上に力を入れています。おすすめの観光時期は4-10月頃。これからの時期は紅葉が見頃になるそうです。

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