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ビール作りで発生する水蒸気、どう活用する?

キリンビール神戸工場が導入した蒸気再圧縮技術の成果
ビール作りで発生する水蒸気、どう活用する?

省エネルギー化を実現した神戸工場内のVRCシステム

**排蒸気回収・再利用 消費エネ・CO2排出を8割減
 キリンビール神戸工場(神戸市北区)は、ビールや発泡酒などを手がける。1997年の操業開始から製造工程にヒートポンプを採用し、省エネルギー、二酸化炭素(CO2)低減に取り組んできた。麦汁にホップを加え100度Cまで加熱する煮沸工程のエネルギー消費量は、工場全体の約35%を占めるとされる。そこで同工程に蒸気再圧縮(VRC)技術を取り入れ、省エネを実現している。

 煮沸は原料中に含まれる異臭成分を水蒸気とし蒸発させ、ホップの有効成分を抽出してビール独特の味や香りをつける。ビールの品質に影響を与える重要な工程。同工程に取り入れたVRCは、麦汁煮沸釜から発生する排蒸気を、スクラバー(排ガス浄化装置)を通して圧縮機に吸引する。低圧蒸気として圧縮機に回収した余剰排蒸気は、再び加熱利用できる圧力や温度になるまで昇圧・昇温する。その後、煮沸用蒸気として再び供給できる。

 従来、煮沸で発生した水蒸気は温水として回収し、工場内で利用していた。一方、温水の製造後すぐに使用できるとは限らず、大型の回収湯タンクが必要だったり、適切な量が確保できなければ回収湯を廃棄せざるを得なかったりした。麦汁煮沸で発生する水蒸気のうち、一部は温水として温度成層タンクに蓄えられ、麦汁煮沸の予熱として活用している。温水回収分以外は、VRCを通して煮沸用蒸気に再利用する。

 神戸工場エンジニアリング・環境安全担当の斉藤駿氏は「VRCの導入で蒸気削減率は従来比約55%を実現する」という。メーカーの前川製作所(東京都江東区)の試算では、年間エネルギー使用量は従来比約82%減の165キロリットル、年間CO2排出量は同83%減の319トンに抑えられるとしている。

 また従来、煮沸時にビール特有の臭気を含んだ排蒸気を、空気中に放出する場合があった。VRCでは完全密閉状態で排蒸気を全量回収する。凝縮、液体化して排水するため、臭気放散を抑え、環境負荷を低減できる。

【事業所概要】▽所在地=神戸市北区赤松台2の1の1、078・986・8001▽主要生産品目=ビール・発泡酒▽年間エネルギー使用量(17年度)=約9600キロリットル(原油換算量)▽年間温室効果ガス排出量(同)=1万6600トン
日刊工業新聞2018年9月21日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
斉藤氏は「ビール製造は常温の原料から処理を開始し、常温の製品を出荷する。加熱・冷却が介在するが、必要最低限の熱量を有効活用したい」と話す。(神戸・中野恵美子)

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