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起業前に中小企業で修行、「ステップアップ起業」を進路の選択肢に

NPO法人アスヘノキボウ
起業前に中小企業で修行、「ステップアップ起業」を進路の選択肢に

宮城県女川町(2018年3月撮影)

 NPO法人アスヘノキボウ(宮城県女川町、小松洋介代表理事、0225・98・7175)は、起業家志望の若手人材を、2年間限定で地方の中小企業の経営幹部として人材を紹介する事業「VENTURE FOR JAPAN(ベンチャーフォージャパン、VFJ)」を始める。第1期として2019年春に受け入れ企業10社へ最大10人を紹介することを目指す。経営の修行を経て起業する「ステップアップ起業」を新しいキャリアの選択肢として学生らに提案する。

経営者の右腕に


 小松代表理事は「大学生がキャリアを考える時、就職か起業の2択しかない。『ステップアップ起業』を第3の選択肢として提示したい」と狙いを語る。1人が複数の役割を担う中小企業の経営幹部として働くことで経験を積み、起業に役立ててもらう。地方は行政と住民、民間企業の距離が近く、地域全体の課題を把握しやすいという特徴もある。

 VFJへの参加者は書類審査や面談を経て決定する。働く前に、ロジカルシンキングモデルや企画書の作り方、ビジネスマナー、ストレスコントロールなどの研修を受けて、経営ポストとして必要な力を身につける。半年ごとの中間研修や、月1回のメンタリングも行う。一連の研修はアスヘノキボウや協力企業が実施する。

 一方、地方の中小企業は人材が不足し、特に新規事業を始める時に社長や経営幹部に仕事が集中しやすい。経営者の“右腕”となる訓練を受けた若手人材を獲得することで、通常業務以外の仕事を拡大しやすくなる。人材紹介を受ける企業は紹介料や研修費をアスヘノキボウへ支払う。

 同事業の趣旨に賛同し、事業パートナーとして経営共創基盤(東京都千代田区)や日本人材機構(同中央区)などが参画。アドバイザーやサポーターに経営共創基盤の冨山和彦社長やメルカリの小泉文明社長らの経営者が名を連ねる。

 8月末に都内で開催した学生や第二新卒向けにVFJを紹介するイベントには約20人が集まった。ある大学4年生は、「先輩起業家の話を聞き、自分と向き合う時間をつくろうと思った。2019年4月に就職が決まっているが、起業を目指したい」と語った。「地方に興味がある。VFJへの参加も考えたい」という大学3年生もいた。

米国で先行


 VFJは、米国のベンチャーフォーアメリカ(VFA)を参考にした。VFAは、優秀な起業家志望の大学生を約1カ月のトレーニング後に、2年間限定で地方のスタートアップや中小企業の経営幹部として派遣し、事業改善や拡大を実現するプログラム。17年度は2500人の応募があり、審査の結果250人を180地域に派遣している。

 NPO法人アスヘノキボウは、宮城県女川町で東日本大震災からの復興支援や地方創生を行っている。小松代表理事が、地元経営者から「右腕となる人材が欲しい」という相談を受けたことが、VFJ立ち上げのきっかけとなった。

学生らは小松代表理事(右上端)や先輩起業家の話に耳を傾けた(8月末の説明会)
(2018年9月11日)
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
地方から世界へ新しいビジネスやコンセプトを発信する人が増えてきています。自分のキャリアに思い悩む人にとって、ステップアップ起業が選択肢の一つになることが期待されます。

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