広がるライブビューイング、さらなる成長のカギは“演歌”

連載・映画館 新時代(5)

ライブ・ビューイングのイメージ(画像はライブ・ビューイング・ジャパン提供)

 映画館でコンサートなどを中継する「ライブビューイング(LV)」の市場が拡大している。LVを含む非映画デジタルコンテンツ(ODS)市場は2017年に182億円に上り、映画館の興行収入全体の約1割に達した。生活者は映画館に特別な映像体験を求めており、“一度きり”のコンサートは映画館にとって価値の高いコンテンツになる。一方、急拡大してきた市場は成長鈍化の気配も漂わせている。LV特有の課題が成長に影を落とす。  ライブビューイング(LV)はコンサートのほか、ミュージカルや演劇などを全国の映画館に中継する。チケットが人気で入手できなかったり、開催地が遠方だったりして本会場に行けない人の需要に応えている。また、「本会場はコアなファンが多く敷居が高いため、まずはLVを体験したいと考えるライト層の受け皿にもなっている」(興行会社の中堅幹部)。観客は20―30代の女性が中心。チケット代は本公演の半額以下で3000円台後半が多い。  シネマコンプレックスを運営する興行会社の間でLVが一躍注目を集めたのは08年。興行会社のティ・ジョイ(東京都中央区)が東京都新宿区のシネマコンプレックス「新宿バルト9」など全5会場でロックバンド「ラルク・アン・シエル」のパリ公演を生中継した。  それまで演劇の収録コンテンツをシネコンで上映したり、コンサートの主催者がその映像を別会場に中継したりする事例はあったが、興行会社が主体となりコンサートをシネコンで生中継するのは初めてだったという。5000円のチケットは発売後すぐに売りきれるほど盛況で、大きな話題になった。  このLVを仕掛けた東映企画調整部兼映画興行部の紀伊宗之次長(当時はティ・ジョイ所属)は「我々(ティ・ジョイ)は映画館のデジタル化を他社に先駆けて進めており、その設備を生かすコンテンツとして音楽ライブの生中継を考えた。映画館は特別な体験ができる場所。そこと“一度きり”の音楽ライブの生中継という特別な価値があるコンテンツが結びついた」と振り返る。  集客力は未知数だったが、会場はパリだったため、潜在需要は確実にあると見込んだ。現地との時差の関係で公演が深夜だったことも「(通常営業が終了した後だったため)全てのスクリーンをライブ向けに明けられ、幸運だった」(紀伊次長)と笑う。  その後、11年にはLV専門の配給会社であるライブ・ビューイング・ジャパン(LVJ、東京都渋谷区)が誕生した。芸能事務所のアミューズ(同渋谷区)が主導して立ち上げた同社は急成長し、今や年間150本以上ものLVを全国のシネコンに配給している。同社とコンサートの主催者、シネコンを運営する興行会社で収益を分配する仕組みにより事業を展開する。  一方、LV市場の成長には特有の課題が影を落とし始めた。コンサートなどは週末の開催が中心となっており、LVも必然的に週末開催がほとんどになる。ただ、週末は年52回しかない。このため、150本以上のLVを行っている現時点で、開催場所の確保が困難になってきている。  LVJの小谷浩樹会長は「週末は1日に2―3本配給する場合もある。これ以上は週末の開催は増やせない」とため息を漏らす。成長を持続するためには平日に集客する仕組みの構築が緊急の課題になっている。  そこでLVJは平日の集客が見込めるシニア層を狙う。例えば、8月には歌手の天童よしみさんのコンサートのLVを配給した。「今後はシニアを集客できる演歌コンテンツなどを増やしていく」(小谷会長)考えだ。ただ、シニア層の開拓は難しい面がある。「若年層はSNS(会員制交流サイト)などで好きな歌手などの情報を取るため、LVの開催を周知しやすい。それに対し、シニア層にどう告知するか頭を悩ませている」(小谷会長)という。  平日の集客力を高めるには収録コンテンツを生かす施策も必要だ。もちろん、生中継は“一度きり”という圧倒的な価値を持つ。その中で、小谷会長は「(収録コンテンツは)ステージだけでなく、舞台裏の映像を織り交ぜたり、映画のように編集するなど映画館でしか見られない価値を付けて集客力を高めたい」と意気込む。  平日の集客はシネコンにとっても課題だ。また、「LVはチケットが映画に比べて割高のため、シネコンにとって収益性が高いビジネス」(興行会社の中堅幹部)とされる。このため、平日に集客できるLVの体制が整えば、映画館ビジネス全体の底上げにつながる。 【01】 【02】 【03】 【04】 【05】 (この連載は葭本隆太が担当しました)

続きを読む

関連する記事はこちら

特集