ニュースイッチ

モビリティ・ベンチャーが提案する貧困層でもローンを組める仕組みとは?

モビリティ・ベンチャーが提案する貧困層でもローンを組める仕組みとは?

借り手の走行データを見て愚直な働きぶりを確信する中島社長(右)。左手には遠隔操作装置を持つ

 新興国で新しい自動車ローンの仕組みを提案する男がいる。車の遠隔操作装置を開発するグローバルモビリティサービス(GMS、東京都港区、03・6264・3113)の社長、中島徳至だ。信用情報がない新興国では、貧困層がローンを組むのは不可能に近い。「彼らの多くは勤勉で仕事に一生懸命だが、車を買えない。そんな人が世界に20億人いる」。中島は憤る。

延滞で停止


 GMSは、返済が滞ると遠隔操作でエンジンの起動を止める代わりに、貧困層でもローンを組める仕組みを金融機関と提供している。小さな遠隔操作装置を車に搭載し、精度の高い全地球測位システム(GPS)やIoT(モノのインターネット)技術を用いることで実現した。ローン返済が遅延してエンジンが停止してもコンビニで支払えば、わずか3秒で再起動する。サービスを利用した車の走行距離は2300万キロメートルを超えた。

 着想したのは2011年。電気自動車(EV)ビジネスの展開を見据えてフィリピンを訪れた時、現実を目の当たりにした。現地では3輪タクシーが庶民の足となっているが、運転手の多くは自動車ローンが組めず、地元の有力者から車を借りて営業していた。その構図は資本家による搾取にも思えた。「一年中、休まずに働く人もいるのに買えないのはおかしい」。中島の中で何かがはじけた。

不履行1%


 すぐに貧困層約1500人を調査した。すると、彼らの毎月の返済能力や律義な性格が分かってきた。「遠隔操作など最新技術を使えば成立する」。そう確信した中島は13年に起業し、自己資本を投じて現地の約200人にローンを実行した。デフォルト(債務不履行)率は10%を覚悟したが、なんと1%未満にとどまった。

 信用情報がない人物に融資するのは、金融の世界では自殺行為に等しい。だが中島は金融界から見放された層の愚直な働きぶりに光を当て、本来の信用情報を作り出した。今ではローン事業でGMSと連携したい金融機関や資本提携を求める企業が相次ぐ。

「働き」可視化


 フィリピンでは借金の完済を祝う会がある。2カ月前、中島はその輪の中にいた。車を所有できたことを歓喜する借り手や家族の顔を見ると、自然と涙がこぼれ落ちた。「借り手の走行データを見ると、まじめな仕事ぶりが分かる。頑張っている人を可視化し、正しく評価される社会をつくりたい」。今後、サービス対象の国や商品を広げるほか、蓄積データを使って保険や学資ローンなどの提案も見据える。

 中島には夢がある。念頭にあるのは、無担保融資でバングラデシュの貧困層を救ったグラミン銀行だ。「グラミンを超える世界的な活動をやりたい」。いま、“ローン革命”を起こそうとしている。(敬称略)
日刊工業新聞2018年9月6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
硬直化した金融、規制に縛られた医療制度、最適な解がない超高齢化社会―。日本は緩やかな景気回復が継続する一方、因習や構造問題に囚われ、夢を語れるような高揚感は少ない。もどかしい閉塞(へいそく)感が漂う中、日本のスタートアップ企業が規制や国境の垣根を跳び越え、社会課題を克服し、人の生き方をも作り替えようとしている。

編集部のおすすめ