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強者・DMG森精機はインダストリー4.0とどう向き合うのか

森社長インタビュー「工作機械の基本構成はアイデアが出尽くした。次は(他の装置と)結合の争い」
 製造業の全体最適化を目指すドイツの国家戦略「インダストリー4・0」。日本のメーカー各社も対応を始めたり、ドイツの成り行きを注視したりと関心度を高めている。インダストリー4・0のカギを握る工作機械メーカーであり独企業と一体化を進めているDMG森精機がインダストリー4・0とどう向き合っているかは、誰もが気になるところ。森雅彦社長に聞いた。
 
 ―独工作機械メーカーと経営統合中です。インダストリー4・0対応に優位性はありますか。
 「ドイツに拠点と人脈を持つため、どんなキーマンがいて何をしているかという動きはより詳細に把握できるし、こちらから意見も言える。とはいえ、インダストリー4・0でやりたいことは日本の製造業が進むべき道と変わらない。恐れることはない」

 ―日本では「国際標準化競争で負けるのでは」との危機感があります。
 「仮に標準化で主導権を握られたとしても、要素技術など中身を押さえれば良い。とにかく、仕組み作りの議論の中に入っていくことだ。枠組みを早く作り上げ、その枠の中で各企業が競争して利益を生み出す、というのが理想の姿だろう」

 ―工具から統合業務パッケージ(ERP)まで幅広く通信で結びデータをやりとりするのがインダストリー4・0の考え方です。工作機械メーカーはどこまで携わるべきですか。
 「インダストリー4・0の実現にはインターネット環境の安全化、高速化が不可欠。いまの環境では危険過ぎるし多くのデータを扱えない。我々は携帯電話の通信を使って工作機械の故障を知り、迅速に対応するサービスを実施中だが、大容量通信はコストがかかり過ぎる。通信環境と、データの処理装置の進化が必要だ。それらは通信事業者などに任せるとして、それ以外に工作機械メーカーができることはやった方が良い」

 「単にユーザーの加工時間を高速な機械で短縮するだけの時代は終わり、調達から出荷まで全体の時間を縮める提案をする『マニュファクチャリングソリューションプロバイダー』こそ、工作機械メーカーのあるべき姿。オペレーター教育への提案などを含め、インダストリー4・0の進捗(しんちょく)と関係なく進めないといけない」

 ―インダストリー4・0により工作機械メーカーの競争要因は変化しますか。
 「工作機械の基本構成ではアイデアが出尽くした。次は主軸回転数を上げての制御や、搬送装置、計測器、ロボット、CAMとの結合の部分で争うことになるだろう。あとは材料技術。機械は材料との戦いで、さまざまな要素を組み合わせた試行錯誤で理想の加工を作っていく。実機を置いたショールームがユーザーの技術と機械のすり合わせの場だ」
 
 【記者の目/工作機械は産業界の定規】
 DMG森精機の工作機械用オペレーティングシステム「セロス」はプログラムなどの情報を機械の操作盤から動かず扱えるインダストリー4・0的なツール。だが、森社長は「子会社マグネスケールの位置センサーも重要」と説く。工作機械は産業界の定規。精密に動くことが生産現場の高度化につながる。機械自体にもまだ課題はある。
(聞き手=大阪・石橋弘彰)
日刊工業新聞2015年07月21日付機械面
清水信彦
清水信彦 Shimizu Nobuhiko 福山支局 支局長
独DMGモリセイキと経営統合中で、日本の工作機械メーカーでは最もインダストリー4.0の最新動向に近い立場にある同社。「日本の製造業が進むべき道と変わらない」という全体観はその通りとしても、では国家戦略として世界標準を取りに行くドイツと、各社てんでばらばらに進む日本とで、進み方に大きな差が出てくるのではないかという懸念は依然として消えません。

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