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「民活まちづくり」を目指す最年少の政令市政都市市長に公園プロデューサーが聞く

「民活まちづくり」を目指す最年少の政令市政都市市長に公園プロデューサーが聞く

熊谷俊人市長(右)と小口健蔵氏

 民間活力の導入は地方自治体の推進すべきテーマの一つ。しかし、まだまだ活用しきれていない印象は根強い。そうした中、千葉市は稲毛区にある稲毛海浜公園検見川地区に民間資本でシーサイドレストラン・カフェを誘致するなど、民活活用の実績を積み重ねている。公園プロデューサーの第一人者である小口健蔵氏は、この千葉市における民活での都市造りと、それをリードする熊谷俊人市長に注目してきた。熊谷市長は2009年に31歳5カ月で政令市政都市の最年少市長となり、現在も一番若い政令市政都市市長だ。数々のユニークな市政を展開し注目されている。公園を切り口に熊谷氏と小口氏が民間活力の導入や都市の新たな価値創出について対談した。

都市公園を活用


小口氏 16年9月に国が都市公園法の改正により、都市公園で官民連携を推進するため、公園(Park)とPFI(民間資金を活用した社会資本整備)を組み合わせたPark―PFI制度を創設するというニュースがありました。このニュースにいち早く歓迎のコメントを出したのが熊谷市長です。これには驚きました。

熊谷氏 行政は行政でしか持ち得ない空間を持っていますが、それらには本来の価値があるにもかかわらず、一つの機能しか提供されていないものがたくさんあります。その最たる例が公園です。仮に公園の面積が少し減っても、来園者が2倍、3倍に増えれば、当初の目的は達成できたのではないかという議論もしてきました。公園至上主義ではなく、都市づくりの中で公園を考えられる職員を増やしていくため、職員と時間をかけて会話する中で、少しずつ官民連携を進め、成果を出してきました。

小口氏 全国的に都市公園を積極的に活用していこうという機運が盛り上がっています。その中でも千葉市は進んでいると私は考えています。特に職員自らが考え、改革を自主的に進めているように見えます。また泉自然公園(若葉区)も官民連携で大きく変わってきています。このような職員の主体的な取り組みをどのように評価していますか。

熊谷氏 これまで成功体験を積み重ねてきました。最初に手がけた昭和の森(緑区)では民間業者がユースホステルをリノベーションして新しい形になり、経営原資としても蓄積できました。一番大きかったのは稲毛海浜公園です。ゼロから仕組みをつくり、公募し、オープンし、評価されました。この一連の流れが、今のように職員が積極的になったポイントではないかと考えています。きれいなステップでノウハウが蓄積できました。

“空のF1”誘致


小口氏 飛行機レース選手権「レッドブル・エアレース」の開催も千葉市だからこそ実現できたと思います。「空のF1」ともいわれ、世界中に多くのファンを持つレースの開催に、どのようにしてこぎ着けたのでしょうか。

熊谷氏 当初は大反対の声もありましたが、千葉市の浜辺は首都圏きってのものです。これだけの浜辺を持っている都市は世界の主要都市の中にもそうそうありません。この都市型リゾートとしての価値を世界に見せつけるためにはレッドブル・エアレースの開催は方向性として極めて正しいと考えました。また稲毛海岸は民間航空の発祥地であるというアイデンティティーもあり、誘致すべきだという考え方に達しました。そして事故や騒音などさまざまなリスクを間接的にとった千葉市が誘致できました。

攻めの街づくり


小口氏 少子高齢化の時代でも都市への人口集積は続くと思います。その中で日本経済のけん引には東京都や大阪府などのメガロポリスとともに、千葉市などの政令指定都市の役割も大変重要です。また政令指定都市間で正しい意味での競争もしてもらいたいと考えています。従来は国の示した方針に従うことが一般的でしたが、Park―PFI制度の創設などを見ていますと、先進的な自治体が自分たちで課題を解決し、成功事例をつくることで、国全体の方向性を引っ張り、それを国が全国の自治体が取り入れるように一般化することが予想されます。

熊谷氏 今までの街づくりは、ここは公園、ここは住宅などと機能分化で進めてきました。よい面もありましたが、都市としてのおもしろみを損ねてきた面もあります。これからの街づくりはファジーな空間をつくり、なだらかに変化するグラデーションのある機能分化をしていくべきです。その意味で公園はよい緩衝材になります。
千葉駅周辺でいえば、中央公園と千葉神社の間の空間は公園がうまく機能していないパターンでした。これを中央公園から千葉神社という和風の部分へと、どのようにグラデーションを持たせてアプローチさせていくかを議論しています。
緑と都市とがうまくグラデーションを描く、未来にも通用する空間をつくっていきます。緑があるということは最高の価値で、それだけ価値のある部分に別の機能を付随させることで、都市の奥深さがさらに感じられるようになります。

小口氏 世界の都市公園を見ていますと、民間のアイデアを取り入れた経営が必要となっています。公園の中だけではなく、周辺エリアを含めて盛り上げて地域を活性化する取り組みです。ニューヨークのブライアントパークの事例が有名ですが、公園を核にエリアマネジメントし、街の価値を上げています。

熊谷氏 日本にはまだ欧米によくあるエリアマーケティング費用を一律徴収し、それを原資に何かをやるという発想が出てきません。いずれ千葉市でも公園などを中心に同じようなスキームが生まれて欲しいし、生まれなければいけません。エリア全体の資産価値を上げたいのならば、核となる場所にみんなで資金を集めて全員で底上げすることも必要です。
これまでいろいろなことに取り組んできたおかげで、千葉市に相談してみようと思ってもらえるようになりました。首都圏だったらまずは千葉市に話を持って来てもらいたいとこれからもアピールしていきます。
【略歴】
おぐち・けんぞう 73年(昭48)千葉大園芸卒、同年東京都庁入庁。09年建設局公園緑地部長。16年オリエンタルコンサルタンツ入社、関東支店地域活性化推進部参与。長野県出身、67歳。

くまがい・としひと 01年(平13)早大政経卒、同年NTTコミュニケーションズ入社。06年政策学校「一新塾」第18期生。07年千葉市議会議員、09年千葉市長(現在、3期目)。兵庫県出身、40歳。
武田則秋
武田則秋 Takeda Noriaki 編集局第一産業部
熊谷市長は2009年に「脱・財政危機」宣言をし市の財政立て直しを進めてきたが、17年9月にこの宣言を解除した。分散していた税金徴収部門を2カ所に集約して徴収体制を強化するとともに、職員の給与も大幅に削減。公共料金の見直しも実施。当時、千葉市はコミュニティーセンターや市営墓地など無料のものが多く、それらを市民との対話を通して有料化してきたという。あらゆる予算の使い方を見直して、財政危機を乗り切った。次のステップが、可能な限り民間活力を活かしたまちづくりになる。見直した予算の執行を緩めることなく、まちづくりでより大きな価値を生み出そうと民間の資金、知恵を活用しようという考えだ。企業視点で魅力的なプロジェクトを打ち出せるかがカギであり、ここでも民間出身の市長の手腕が問われそうだ。

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