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スピーチライターが教える『コミュニケーション力』の鍛え方

蔭山洋介氏
 コミュニケーション力を求められても、自信のない人もいる。スピーチライターは依頼者の思いをくみ取り、他の人に響くように伝えるプロだ。スピーチライターの蔭山洋介氏に、コミュ力の不安を打破するために必要な事を聞いた。

コミュ力トレーニングはバッグ選びから?


 -経団連の調査によると、コミュニケーション能力は15年連続で新卒採用の選考で重視する要素の1位です。そもそもなぜ今、これほどコミュ力が求められているのでしょうか。
 「暑い日に『暑いね』と言い合うように、共通前提があって初めて、その土台の上で共感し、コミュニケーションが成り立つ。現在は、社会的なコンセンサス(合意)が揺らいでいるため、コミュニケーションの難易度が上がっている。例えば、移民に反対する人も、自由や多様性が正義と思う人もいる。土台づくりの時間や手間が足りないまま言いたい事を言うため、コミュニケーションではなく、アジテーション(煽り)になっている」

 -コミュ力を高めるトレーニングとして、セルフブランディングを提案していますね。
 「コミュニケーションの基本は共感を得ることで、子どもが好きなものを『見てみて』とオススメするのと同じ。だが、価値観が多様化して、みんなに共通する『いいもの』がなくなったことで、何をオススメしたらいいかわからない人が増えた。コミュ力に不安を感じる一因だ。セルフブランディングを行い、自分の方向性を固めれば、自信を持ってオススメし、コミュニケーションできる。相手に話を響かせることができる」

 -セルフブランディングは何から始めればいいですか。
 「今と未来の成長した自分をイメージし、好きなバッグや洋服、家具などを一つずつ選ぶことから始められる。ただし、その場その場でバラバラに欲しいものを選ぶのではなく、未来の自分に照準を合わせて意識的に『好きなもの』を選び取る。これを繰り返し、好きなものに囲まれると、個性が際立つ。今の時代、『好き』は最大の武器だ。一方、『好き』を選び取る過程を周りも見ているため、後戻りできない。自分の方向性を維持するために踏ん張る強さにもなる」

ムリゲーを突破せよ


 -産業界は、より多様性を求める方向へシフトしています。
 「産業界は今や多様性がなければ成り立たない。より高度なコミュ力が必要だ。多様性だけでなく、企業のあり方も変化している。これまで日本企業は同じ釜の飯を食う『共同体』で、深く分かり合う関係だった。今後は海外と同様にお金と目的でつながる『生産体』が増える。今の日本企業の上層部は、上司を『親父』と慕う『共同体』の中の関係で育ったが、若手社員に同じことを求めるのは難しい」

 -今後の『生産体』の企業では、人間関係はどう変わりますか。
 「プレーヤーとマネージャーが、より明確に分かれる。プレーヤーは個性の違いだけでなく、外国人や高齢者、ロボットも入ってきて一層多様化する。マネージャー層には、多様なプレーヤーをまとめてプロジェクトを推進する力が求められる。人間関係の変化の一端は現在もある。例えば、社外に高いスキルを持つデザイナーがいれば、その人が変わり者でも仕事を頼む。その人との関係は、『共同体』の企業内の人間関係と違い、一定の距離がある。同じような人間関係が『生産体』の企業の社内でも出てくるのではないか」

「今の時代、『好き』は武器になる」と話す蔭山洋介氏

 -では、今の日本企業が求めるコミュ力の高い人材はどんな人でしょうか。
 「共同体で育った今の上層部にとって、『企業の秩序を乱すことなく、新しい価値を生む』人材だろう。だが、空気を読んで秩序を守るのと、独自の意見を言うのは逆の関係にある。両立させるのは、ムリゲー(突破がほぼ不可能なゲーム)だ」

何としてもやり遂げる『必然性』はつくれる


 -少数ですが、ムリゲーを突破できる人もいますね。
「突破できる人は、相手を納得させる過去の実績や、もともとの友好的な人間関係、根回しなどを総動員して、『こいつの言う事は、多少変わっていても聞いておこう』という土台を作っている。その場で言葉を選んだり、空気を読むだけでは実現できない。さらに踏み込んで言えば、そんな面倒くさいことをやってでもやり遂げたい『必然性』を持つ人は、何としてでもコミュニケーションを取ろうとするため強い」

 -『必然性』を持つ人は、『好き』を持つ人よりも少なそうです。
 「本気でコミュニケーションを取るのは、そもそも手間がかかり、面倒くさいものだ。難しい状況で踏ん張るには『好き』という思いでは弱く、『必然性』がある方がいい。だが、『好き』の再発見は誰でも始められる。『好き』の再発見を繰り返すことで、『必然性』をつくることにつながる」

(終わり)

連載「変化の時代のコミュニケーション力」


①ひらめく会議はPDCAの逆を行け!価値を生む共感づくりの方法
②最初の一言で、会議にチームワークのスイッチを入れる簡単な方法
③ヒントはグーグルの社食?未来のオフィスは『求心力』で進化する
④スピーチライターが教える、相手に響く話のためのトレーニング
※①は、②③④から一部を抜粋・編集しているため、重複部分があります。
ニュースイッチオリジナル
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
テクニックを磨くよりも、自分の中に『話す中身』をコツコツつくることがコミュ力強化になるとのこと。急がば回れです。近々掲載予定のインタビューで、経済界の重鎮の方々も同様に『中身』を鍛えることが大事だと指摘していました。ビジネスパーソンにとって、ますます個性が重要な時代がやってきます。なお、コミュニケーション力の連載は、これにて一旦終了です。ありがとうございました。

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