若手研究者にばらまきを

競争的研究費で若手育成・支援を重視

 「若手研究者の支援重点化を競争的研究費全体で行う」とする方針を、政府の「統合イノベーション戦略」が掲げた。未来の科学技術の苗を多数、育てる上で、若手向けの研究費の意識的な“ばらまき”効果を期待したい。  総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が6月にまとめた統合イノベーション戦略は、科学技術力の議論に大学改革の切り口を入れたのが特徴だ。民間資金獲得の推進や大学の連携・再編とともに、若手の研究支援が柱だ。科学研究費助成事業(科研費)などそれぞれの競争的研究費で、若手の育成・支援を重視した仕組みの導入を検討する方針は注目に値する。  ノーベル賞受賞者の例を出すまでもなく、若手研究者が科研費などで手がけた基礎・基盤的な研究が種となり、芽を出して一大分野に育った研究は少なくない。CSTIの上山(うえやま)隆大議員は、「今はどんな分野の何がイノベーションにつながるのか予想できない時代だ。そのため少額でよいから若手に広く研究費を出し、研究基盤となる“苗床”をつくるのが最良の方法」と強調する。  若手の独創的な発想を基に、若手自身が研究主宰者となって手がける基礎研究は多額の資金を必要としない。1件当たり理系で500万円、文系で100万―300万円程度だと上山議員は説明する。  近年、選択と集中で競争的研究費は1件当たりの大型化が進み、大御所の年長研究者が代表となって何千万円、何億円と得るケースが増えた。若手はこのプロジェクトのごく一部で割り振られたテーマに取り組んでいるのが実情だ。今回の施策はこれを変えようとしている。国立大の運営費交付金による個人研究費の一律支援という形でなく、競争的環境下でのばらまきなのも興味深い。  未来に向けた研究投資はリターンの確約がない。とはいえ、国費を使う損失は抑えたい。適切な分散投資で、ここぞという段階になったら集中投資していく。そんな仕組みの整備を求めたい。 日刊工業新聞2018年8月3日  イノベーション創出に重要な多様性確保やハイリスク・ハイリターンの挑戦は日本社会が苦手とするところだ。世界的な研究論文も、日本は生まれては消えていく“小島”領域への参画が少なく、確固とした“大陸”領域に偏在しているという。これが、小島より大陸を選ぶ安全性重視の現れとすれば、見過ごせない。  国際的な研究論文における日本の存在感低下は近年の大きな問題だ。論文シェアなどさまざまな指標があるが、多様性という切り口では果たしてどうか。これは文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)がまとめた調査報告書「サイエンスマップ2010&2012」から読み取れる。  報告書は世界の研究論文のうち、他論文に引用されることの多いトップ級論文が800超の研究領域のどこにあるかを示す。日本の論文は全領域の33%にしか参画しておらず、英国61%、ドイツ55%に比べて偏っている。世界の先端研究のうち3分の2の領域で「日本人の研究はなきがごとし」なのだ。  背景には国際共同研究・共著論文が少ないことがある。英独が、国際的な研究者ネットワークを活用して共著論文に名を連ね、苦手分野でも目配りできているのとは対照的だという。実は研究領域の数自体、10年前の600弱に比べ3割も増えている。世界では新たな研究領域が続々と生まれており、その拡大機運に乗れば多様性は向上する。しかし日本は、一部しか目を向けていない。  NISTEPは各研究領域を、他領域との関連性や研究継続性を指標として「不安定な小島型」から「がっちりとした大陸型」まで4種に分類している。日本の参画領域の内訳は小島型が26%で大陸型が33%。世界全体が小島型40%、大陸型19%になっているのとは様相が異なる。日本は伝統的に応用や改良の研究が得意とされる。逆にいえば先端領域は苦手だが、それにしても大陸型への傾斜は予想以上ではないだろうか。  近年の日本の研究の傾向では、社会の課題解決に向けたテーマや、目的が明確な競争的資金の位置づけが高くなっている。公的資金を着実に生かすためには大陸型に分があるのかもしれない。しかし研究者の取り組みが流行のテーマに集中し、わずかな差を競うようになっては困る。 イノベーションのための創造性は、海の波間に見え隠れする小島型に象徴される。数年後に成長して島になるのか、逆に波に洗われて消滅するかは分からない。しかし世界的な研究論文を生み出す基礎研究にあっては、自ら“無人島の王者”なるのだという意気込みを、決して忘れないでいてほしい。

続きを読む

関連する記事はこちら

特集