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最初の一言で、会議にチームワークのスイッチを入れる簡単な方法

変化の時代のコミュニケーション力②
最初の一言で、会議にチームワークのスイッチを入れる簡単な方法

写真は同社ホームページより

 多様な人が集まれば集まるほど、意見も多様化し、話をまとめるのは簡単ではない。富士ゼロックスは東日本大震災からの復興のアイデアを話し合う「対話会」で、住民や行政といった立場の異なる人たちが一緒に行動するためのアイデアをまとめてきた。研究技術開発本部コミュニケーション技術研究所の河野克典グループ長に、多様な人が一つのチームになってひらめくための会議のコミュニケーション術を聞いた。

共感状態は『チェックイン』でつくれる


 -震災復興や地方創生に向けた対話会では、異なる立場の人たちのコミュニケーションがうまくいっています。多様な人が同じ方向を向くコツはありますか。
 「対話会では、PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを手放すことから始めた。PDCAのスタートである計画を立てず、人脈づくりから始める。これは、自己を開示して、役職や立場から離れた個人になって、損得抜きでつながる。そして、他の人が何をしたいか聞く。すると、共通した『大事なこと』に気づきやすい状態になり、同じ目的に向けて動きやすい」

 -PDCAはより良い計画を実行する方法として日本に定着しています。
 「PDCAサイクルを回す時に働いているのは、言語や論理的思考、分離する思考を担う『左脳』だ。論理的に考えすぎると、アイデアはつまらなくなる。アイデアを生む段階は、『右脳』を活性化させて、可能性を広げて考えた方がいい。PDCAを手放して、その『逆』のことを行うと、直感や他者とつながる右脳が活性化する。共感して、集団でひらめくことができる。論理的に考えるのは、その後でいい」

 -普段、自己を開示する機会は少ないです。通常の会議にも応用できますか。
 「対話会だけでなく、社内の会議でも、最初に今の率直な気持ちを一言話す『チェックイン』をよく行っている。話す順番は決めない。沈黙が続いても、同時に話してもいい。すると、みんな周りをよく見るようになる。例えば、誰かが『今日は父の命日で、父のことが思い出されます』と話すと、他の人も似た経験を思い出す。こうして個人同士でつながった状態で、司会が『今日はここまで進めたいので、よろしくお願いします』と話すと、みんなですっと集中状態に入れる。権威的な会議をチームワークの会議に変えられる」

静岡県松崎町での対話会は、町の雰囲気を感じる古民家で開かれた。

会議室でアイデアが浮かばない理由


 -アイデアを広げる時に、右脳と左脳の違いはどう影響するのですか。
 「違いを知るために、実験をしてみよう。まず『戦略』を頭の中にイメージしてほしい。次に『運動会』を思い浮かべてほしい」
 「体験したことのある運動会の方が、空の色や風の強さ、友だち、その時の気持ちまで思い出し、情報量が多かったのではないだろうか。このイメージの広がりが大切。この時、右脳が働いている。一方、戦略のような概念を考える時は左脳が働く。概念はイメージが広がりにくい」

 -多様な意見が出ると、対立構造が生まれることもあります。膠着状態を防ぐ方法はありますか。
 「相手と向き合うのではなく、お互いが対象に向き合う。そして、相手の対象への向き合い方を見て関係を築く。戦国武将が好んだ茶の湯は好例だ。正面に座らず、五感を働かせて所作や一輪挿し、部屋のつくり、茶の湯への姿勢から、信頼できる人間かを感じとる。だからこそ、茶の席で武将同士の和解が成立したのだろう」

 「一方、人工物だらけの会議室は、発言内容だけに集中して、思考に偏った状態になりやすい。思考は左脳の担当。相手の発言の裏に『嫉妬』や『さみしさ』があれば、発言内容よりも感情へ対処した方がいいが、思考に閉じこもっていると相手の感情を読めない。五感に刺激を与えて、右脳が担当する『今ここ』に意識を引き戻すことは有効だ。声や表情の変化などに気づく。思考の偏りから抜け出す方法は人それぞれだが、何かに触れたりするのはきっかけになる」

河野克典氏、扇子を持つことで『今ここ』の気づきを維持しているという

へそ曲がりとの良い向き合い方


 -相手との関係によって、座るのに適した場所はありますか。
 「話を聞く時は隣がいい。私は東日本大震災の被災地を訪問した時、本当の『傾聴』を実感した。そのおばあちゃんは声が小さく、なまっていて、話している言葉が全くわからなかった。そこで、隣に座り、目をつぶってじっと耳を傾けた。すると、思考を介さずに、話の内容が絵の形で浮かんできた」

 -すでに敵対関係になってしまった人と一緒に参加する会議もあります。
 「社内なら『会社を良くしたい』という根底では同じ。へそ曲がりの人と話し合う時は真正面に座る。会議中は『今ここ』を意識し、相手の感情も含めて受け止め、真っ向勝負で対応する。私の場合、会議の前に真剣さに加え、『愛しています』と伝える。どんな人にも有効な便利な受け答え方はない。経験を積んでいけば、『今ここ』の状態を読み取ることで、一番いい言葉が浮かぶようになる」

連載「変化の時代のコミュニケーション力」


①ひらめく会議はPDCAの逆を行け!価値を生む共感づくりの方法
②最初の一言で、会議にチームワークのスイッチを入れる簡単な方法
③ヒントはグーグルの社食?未来のオフィスは『求心力』で進化する
④スピーチライターが教える、相手に響く話のためのトレーニング
※①は、②③④から一部を抜粋・編集しているため、重複部分があります。

ニュースイッチオリジナル
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
みんながいいと思う『集団のひらめき』は、実行する時に大きなパワーが生まれます。

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