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もはや仮想ではない“RPA” ソフト進化で新たな労働者に

関連市場は数百億円―海外製、日本にどう浸透
もはや仮想ではない“RPA” ソフト進化で新たな労働者に

RPAは日本企業の職場を「改革」できるのか(日立ソリューションズの職場風景)

 デジタルレイバー(仮想労働者)としてもてはやされているRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)―。実態はロボットではなく、パソコン内で動くソフトウエアに他ならないが日に日に進化を遂げ、もはや仮想ではなく実在する一つの手段となっている。RPAは企業にとって新たな雇用形態の従業員であり、働き方改革の観点からも避けて通れない業務の担い手だ。だがRPAの多くは海外製のツールであり、日本社会にうまく根付くのか問われている。

 2018年度はRPAの運用が拡大する年である反面、金融機関をはじめ業務自動化に先手を打った企業の成果を見守り、導入が踊り場になる年でもある。

 三菱総合研究所コンサルティング部門経営イノベーション本部の佐々木康浩主席研究員は「導入コンサルやシステム構築など含めたRPA関連市場は当社の試算では、20年度には数百億円を超える市場規模となる」と予想する。次にどの業種業態が人材不足や働き方改革を背景に本気でRPAを導入していくのか注目される。

 市場の拡大には海外製のツールだったRPAが日本にどの程度浸透するかにかかっている。RPAはもともと、IT企業がシステムやソフトウエアなどの開発を、途上国など人件費の安価な国にアウトソーシングする「オフショア開発」の代替として発展した。途上国の人件費の高騰などによりアウトソーシングの利点が低下したことで、欧米企業によるRPAの開発・業務適用が急速に進んだ。そのためツールもグローバルシェアが高いといわれる「ブループリズム」や米国で実績がある「オートメーションエニウェア」など海外製が目立つ。

 「お客さまに提供するためには我々自身がモルモットにならなければいけなかった。RPAはノウハウが必要だ」と強調するのは、日立ソリューションズスマートライフソリューション事業部の小山善直部長だ。日立ソリューションズでは「ロボット開発の容易さ」「多くの業務・財務・顧客情報システムに対応する」「ロボットの管理機能」などを基準にオートメーションエニウェアを選定した。自社導入とともに、事業として同RPAの販売・構築支援を行っている。

 同社では単にRPAを導入するのではなく、運用のため社内にポータルサイトを作成した。業務を自動化するツールの一覧表や使用に関するガイドラインを全社員が閲覧できる。この運用システムの構築により人事や財務など管理部門での活用に限られると思われがちだったRPAは、「むしろ営業や事業部門など自動化できるところが多くある。RPAを導入して楽になったという時期は必ずくる」(小山部長)と期待する。

 「ブループリズム」を国内で販売するのは東芝情報システム(川崎市川崎区、伊藤壮介社長、044・200・5111)だ。SIソリューション事業部商品企画部の野瀬克紀部長は「業務にマッチしたRPAでなければ効果は得られない。業務に適したRPAを得るにはシステム構築事業者と連携する必要がある」と話す。

 ブループリズムは欧米では、保険会社や通信キャリアなど高いコンプライアンスが要求される企業で利用されている。人事や財務などの事務業務を置き換えるのではなく、業務改善のための全社導入を前提にしたツールだ。「管理機能に優れているが、企業ごとにカスタムメードする必要がある。何をどう自動化し管理するのか、明確な業務定義が必要だ」という。

 

国産RPAの利点―自分で自動化構築


 外国製ではなく国産RPAの筆頭となっているのが、NTTアドバンステクノロジ(NTT―AT、川崎市幸区、木村丈治社長、044・280・8811)が開発し、NTTデータなどが構築・販売する「ウインアクター」だ。

 日本語対応でもあるため、ユーザー自身がRPAを使い自分で自動化ツールを作ることができるのが特徴だ。NTTデータ第四公共事業部第二統括部RPAソリューション担当の中川拓也課長は「勘所をつかむ必要があるが、プログラマーでは数日から1週間くらい。一般社員でも2―3週間触ればパズル感覚でシステムを構築できる」と話す。

 一方、ツール一つひとつの管理が難しく、管理担当者不明のツールが勝手にメール送信やファイルの処理などを行う「野良ロボ」化する危険性もあるため、NTTデータではRPAツールをサーバーで一括管理する「ウインディレクター」の提供に力を入れ始めた。

 RPAは海外企業が開発した業務自動化ツールで、そのまま日本に適用するのは困難だ。海外企業では担当者ごとに業務が明確化している一方、日本はあうんの呼吸で仕事を行う。誰がどの仕事をどれぐらい担当しているのか把握していないため、日本ではRPA導入の前に業務の棚卸しが重要になってくる。また、導入形態によって大きく変わってくるが、サーバー型のオートメーションエニウェアは年間利用料が約1200万円、同じくブループリズムは3年契約で年間約600万円だが、デスクトップ型のウインアクターは1台当たりの年間利用料が約90万円とバラつきがある。自社の業務にあった導入形態が必要となる。
 
日刊工業新聞2018年7月30日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
RPAは海外企業が開発した業務自動化ツールで、そのまま日本に適用するのは困難だ。海外企業では担当者ごとに業務が明確化している一方、日本はあうんの呼吸で仕事を行う。誰がどの仕事をどれぐらい担当しているのか把握していないため、日本ではRPA導入の前に業務の棚卸しが重要になってくる。また、導入形態によって大きく変わってくるが、サーバー型のオートメーションエニウェアは年間利用料が約1200万円、同じくブループリズムは3年契約で年間約600万円だが、デスクトップ型のウインアクターは1台当たりの年間利用料が約90万円とバラつきがある。自社の業務にあった導入形態が必要となる。 (日刊工業新聞社・川口拓洋)

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