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カキ養殖や酒造にも。品質工学で地場産業を活性化

カキ養殖や酒造にも。品質工学で地場産業を活性化

6月27、28両日に開催された研究発表大会(ポスター発表のコーナー)

 品質工学を実践する地方研究会が、技術開発や地域経済の振興に新たな成果を生んでいる。広島品質工学研究会(広島市中区)は従来の自動車に加え、水産業や食品へ適用を拡大。静岡品質工学研究会(静岡市葵区)は簡素な品質工学の実験方法を考案し、利用企業を増やしている。半面、研究会の維持に苦しむ地方も少なくない。悩みや知恵を出し合い、苦境に立ち向かう局面も迎えている。

 品質工学は製品開発や製造の良しあしを効率良く評価し、品質やコストの優位性を高める技術手法。技術者が主に活用するため、モノづくりの盛んな地域で数多くの地方研究会が活動している。

 品質工学会(東京都千代田区、谷本勲会長、03・6268・9355)が都内で開いた「第26回研究発表大会」では、そうした地方研究会にスポットを当て、初めて壇上で発表の場を設けた。

産学官一体


 「カキ養殖や最近は酒造にも使われ、研究開発に役立っている」と説明したのは、マツダの車両開発本部首席エンジニアで広島品質工学研究会の武重伸秀氏。マツダは品質工学を燃焼効率の高いエンジン開発などに生かし成果を上げてきた。部品の協力メーカーも、研究会に取り込む。

 マツダを中心に産学官で地域経済を引っ張る体制を整え、地場産業にも呼びかけを始めた。カギは、企業が研究会と守秘義務契約を結び安心して開発テーマの相談を受けられる方式を採用したこと。「品質工学の考え方を教えるだけで、半年で商品化できた事例もある」(武重氏)。他の技術手法も使い、産学官一体で地域経済の競争力を高めている。

 少ない実験数で品質工学を実施できる手法の「近直交表」を紹介したのは、アルプス電気の角田製造部主任技師で静岡品質工学研究会の貞松伊鶴氏。品質工学は実験の多さが敬遠される場合もあるため、研究会で数理を研究し近直交表を実用化した。貞松氏は「計算式を公開し、企業の活用事例も増えてきた」と手応えを示す。

陰りも…


 しかし、地方には陰りもみえる。「会員が減り固定化し研究事例も少ない」、「研究会の事務局を置く公設機関から自立を促され、事務局業務の継続を断られた」と、苦慮するケースも目立った。これに対し関西品質工学研究会(堺市堺区)会長の鉄見太郎氏は、「公設機関に成果を明確に報告し、地域企業を支援する協力関係を築く必要がある」と提言。各地の研究会が交流し、アイデアを共有する考えも示した。地域貢献こそが地方研究会存続のカギを握る。
(文=大阪・田井茂)
日刊工業新聞2018年7月10日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
品質工学の入門書を読んだ時、抽象的で難しいなあという印象を受けました。牡蠣や酒造など身近なものへの活用事例が興味深いのでもう一度本を開いてみようを思いました。

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