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国立大学関係者の目がくぎ付けになる国の予算

民間資金獲得と運営費交付金の連動
 内閣府は国立大学が産学連携で得た民間資金の額に応じ、インセンティブ(意欲刺激)として国からの研究費を上乗せする仕組みを導入する方針を固めた。上乗せした研究費は人文科学系や理学系の基礎研究などに使えるようにする。研究系大学など対象となる国立大を最大10数校選ぶ。上乗せ額は1校あたり年間最大数億円程度とみられる。内閣府は2019年度予算の概算要求に盛り込む方針。今後、国立大だけでなく、国立研究開発法人にも同様の仕組みの適用を検討する。

 日本では大学の“稼ぐ力”が低下し、その源泉となる研究力も低下している。産学連携で民間資金を増やす努力をしている国立大にインセンティブを与えることで、本来の大学の目的である研究力を向上させる。

 国立大は14年度から16年度にかけ、国からの運営費交付金や授業料などで賄う経常研究経費が452億円減少。一方、企業が負担する共同研究費や寄付金などによる同時期の収入は205億円しか増加していない。国立大全体の研究活動収支は赤字の状態が続き、負の連鎖に陥っている。

 対象の国立大に研究費を上乗せする取り組みを継続することで、民間資金を増やし、国立大の研究資金の赤字体質を黒字体質に変えることを目指す。民間と大学が長期的なパートナーとなり、最終的には国からの資金に頼らず、資金が循環する仕組みを構築したい考えだ。
               


大学改革、吉凶やいかに


 政府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)がまとめ、閣議決定された「統合イノベーション戦略」は、科学技術力強化に向けた大学改革が目玉だ。このうち国立大学関係者の目をくぎ付けにするのが「民間資金獲得と運営費交付金の連動」だ。地味な研究も支えるための民間資金か、大規模研究大学以外を見捨てる施策か。政府の総意としての戦略に、国立大関係者の期待と警戒が入り交じっている。

 国立大を支える資金は近年、基盤的な運営費交付金と、公的研究費を中心とする競争的資金の2本立てできた。その結果、競争的資金が獲得できる工学や医学などの分野と、それ以外の分野で収入の差が拡大した。これに対し今回、共同・受託研究費や寄付など民間資金の獲得に応じて、運営費交付金の配分を変える仕組みが、2018年度中に検討されることになった。

 産学共同研究は官民連携の下で組織対組織の大型化が進んでいる。研究自体に使う「直接経費」に加え、設備など研究遂行に必要な「間接経費」を、大学が企業と交渉して獲得するのが鍵だ。しかし根拠となる金額算定や成果の約束が難しく広がりは限定的だ。

 そこで運営費交付金でのインセンティブ(意欲刺激)で間接経費の獲得の後押しを狙う。成果連動の交付金、間接経費、また寄付金など「大学が自由になる資金を増やし、競争的資金が得にくい人文・社会科学系や理学系の基礎・基盤研究に回す」と上山隆大CSTI議員は青写真を描く。これは規模が大きいか研究中心の大学、もしくは総合大学で新たな手法となり得る。一方、民間資金が得にくい人社系の単科大学などにすれば、状況悪化の不安が拭えない。

 交付金連動の検討は政府の「未来投資戦略2018」にも記されている。19年度予算の概算要求は文部科学省に加え、インセンティブ分の上積みなどCSTIが交渉に関与する展開になる。すでに交付金とは別の研究費上乗せをする戦略も出てきた。吉凶がどう出るか、注視される。
              

(文=山本佳世子)
日刊工業新聞2018年6月27日/28日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
 政府戦略は「来年度予算で実現を目指す」ものと、「今年度に検討し、予算は再来年度を思案する)」ものとが入り交じる。今回、日刊工業新聞では「国立大が産学連携などで民間資金の獲得を増やすべく、それを後押しする予算を付ける」という施策が、相次いでこの二つの形で記事となった。時系列的にいうと、政府の「未来投資戦略2018」や「統合イノベーション戦略」で、「民間資金獲得に応じた交付金の配分メリハリ付を、2018年度中に検討する」との文面が公表されたのが先だ。解説記事はこの狙いにフォーカスした。  しかしこれは今年度の検討案件であって、2019年度予算つまり今夏の概算要求に入るものではない。これに対して、「交付金ではなく内閣府の新予算として、導入民間資金の額に応じて上乗せする研究費を導入する」というニュースは、今夏の概算要求に向けた最新のネタとして登場した。この二つの施策をどう読むか。「19年度予算は内閣府が財務省から特別に引き出し、研究国立大10数校で支援を実施。ここで財務省から引き出した分を、20年度予算からは、運営費交付金の上積みにシフトさせ、全国立大で競争させる形に変更する。さらに、国立研究開発法人でもこの形を導入する」となる可能性がある。そうなると流れは予想以上に大きなものとなってきそうだ。

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