星野リゾートはなぜ強いのか。社長・星野佳路が語る「成功の条件と世界戦略」

「日本の観光産業は、需要ではなく運営や生産性に問題がある」(星野社長)

星野社長

 外国から日本を訪れる訪日外国人の数が年間1500万人を突破する勢いで推移するなど、日本の観光市場は、変化のただ中にある。多くのホテルチェーンが訪日外国人を取り込む戦略を鮮明にする中、わずか15年ほどで、全国で34のホテルやリゾートを運営し、日本を代表するリゾートホテルチェーンとなった星野リゾート。星野佳路社長は今、何を見て、経営をしているのか。戦略に迫った。  ベンチマークは運営に特化した外資。手本はトヨタの『多能工』  ―施設の急拡大が続いていますが、星野リゾートの最大の強みは。  「土地や建物を所有せず、運営を専門にしていることと、一人のスタッフがフロントやレストラン、客室など、さまざまな仕事をこなし、時間当たりの生産性が高いこと。日本はオークラもオータニも不動産を所有しているので、ベンチマークしているのは、ハイアット、マリオット、リッツカールトンなど、不動産を持たずに運営のノウハウだけで成功している外資だ。マルチタスクはトヨタ自動車の『多能工』を手本にしている」  「ホテル業界の最大の問題は、朝と夜に仕事が集中し、昼間は手待ち時間となる『中抜けシフト』。スタッフがホテルの中のすべての技能を身につけ、多能工化すれば、連続して働けるので、中抜けシフトをなくすことができる。スタッフの生産性を上げることで収益率を高め、一人ひとりのスキルの幅が上がれば、人材育成の面でもプラスになる。これをホテル業界できちんと実践すれば、非常に効果が大きい」  スタッフ、組織が強くなるプロセスが大事。施設の成熟には5年かかる  ―運営面での強みは。  「星野リゾートの各施設では、その地域ならではの体験を作りだし、魅力を感じてもらうことがコンセプトになっている。そのためには、その施設のコンセプトを決め、マーケティングをして、必要な投資しながら、スタッフの組織が強くなっていき、浸透させるというプロセスが非常に大事で、それには3~5年かかる。施設が成熟するには5年必要ということだ」  「例えば、高知県のウトコ オーベルジュ&スパは運営始めて3年が経過し、パターンが見えて良くなってきている。4月から始まったばかりの京都のロテルド比叡は、まだまだこれからだ。訪日外国人が増えているとか、市場環境よりも、各施設の運営プロセスやスタッフが揃い、組織がどこまで強くなったか、コンセプトが明確になって共有できているかが、業績に影響する。ホテルの稼働率では、東京、大阪と地方の差が大きくなっている。しかし、青森の青森屋やトマム、沖縄の竹富島は絶好調だ。市場環境で言えば、青森などは、周囲の宿泊施設は大変そうだ。自ら魅力を出さずにマーケットが伸びるという状態ではない。企業努力は絶対に必要だ」  まず日本人に支持されること。そうなれば外国人も本物だと思ってくれる  ―訪日外国人が増えていますが、それはあまり重視していないのでしょうか。  「大事なのは外国人がどれだけ増えても、宿泊客の大半は日本人であるということ。国内リゾートの宿命だ。サービスは日本人に支持されることが大事で、日本人が支持することで、外国人も本物だと思ってくれる。訪日外国人を増やすことは大事だが、それがマーケティングの中心になってはいけない。大切なのは、日本人の満足度を高い水準で維持すること。その結果として訪日外国人が伸びるのであれば、良いという考え方だ」  「バブル崩壊の頃からリゾートを手がけているので、外部の経済環境にはあまり左右されないようにしている。日本の国内観光市場は、年間20数兆円と大きな規模で安定している。顧客にしっかりと地域の魅力を感じてもらい、売り上げさえ安定させれば、収益は運営の生産性を高めることで拡大できる。日本の観光産業は、需要ではなく、運営や生産性に問題がある。上がってきた売り上げからしっかりと利益を出す、そこに私たちのノウハウがある」  生産性の高いマルチタスク運営は地球上のどこでもロジックは同じ  ―バリやタヒチなど海外への進出も決定していますが、海外事業も含めた、今後の事業拡大の方向性は。  「目標は持たないようにしているが、運営してくれという施設があれば、全部運営したい。星野リゾートの運営ノウハウが広まりつつあり、持ち込まれる案件は増えている。その中から自分たちに合ったものを選んで、増やしていきたい。基準は、短期的な利益でなく、中長期的な競争力を大事にしてくれるオーナー、投資家であること。一時的に利益が回復しても、その後の設備投資に資金が回らないと、施設が強くなる循環が生まれない。中長期的な競争力強化に合意してくれることが大事になる」  「星野リゾートの得意分野はマルチタスクであり、生産性の高い運営方法だ。そうである限りは、地球上どこへ行っても同じロジックだと思っている。集客はその地域の事情に合わせて、競合よりちょっとよくすれば良いのであって、我々に共感してくれるオーナーがいれば、場所はアフリカでもアイルランドでも、地球上どこでも行きたい。今は中国や台湾で話があり、企画開発などをしているところ。中国、台湾は実現性がありそうだ」  ―2016年には、初の都市型日本旅館「星のや東京」が開業します。  「星野リゾートの20年後、30年後を考えるときに、世界の大都市に日本旅館を作るということが、夢であり課題。90年代のバブル経済のときに、米国に留学していたが、日本のホテル業界は絶頂で、日本航空やセゾンが米国のホテルを買収して進出していたが、結果的にうまくいかなかった。あのときはみんな必死に頑張ったし、私もそれに加わった。当時の反省を踏まえた上で、もう一度日本のホテル業界が世界に出るチャンス担いたい」  「ニューヨークやサンフランシスコでトヨタが走ってるし、今や世界中に寿司屋がある。世界の旅行者が大都市で日本旅館に泊まるという選択肢を与えることは絶対に可能だ。フランス料理と日本料理の選択と同じように、ホテルか旅館か選ぶ。そのマーケットは必ずある。宿泊客は日本旅館の快適性や素晴らしさを支持してくれている。十分にやる価値がある」  「その中で、東京は外せない都市であり、日本旅館を大都市で通用し、その上で収益を出せることを示すには、まず東京でやらないことには話にならない。星のや東京はそういう位置づけで、うまくいけば、日本旅館が世界に出ていくドアが開く。星のや東京が東京で勝てなければ、日本旅館は海外に出る機会を逸する。そういう重要なプロジェクトだ。東京で収益を出せば、世界の都市の開発会社や不動産投資家が認めてくれるようになる」  星のや東京がオープンして浴衣を着て大手町を歩いてもらえれば楽しい  ―日本旅館と西洋のホテルの違いは。  「日本旅館はホテルに入ったらセミプライベートが始まるということ。西洋のホテルはホテルに入ってもパブリックで、ロビーやレストランに宿泊客でない人がいる。日本旅館は靴を脱ぐ瞬間からセミプライベートが始まり、施設内に宿泊客以外の人がいないから、浴衣でうろうろしてもいい。そこが日本旅館として譲ってはいけない線だ。日本旅館が進化し、快適性、機能性で西洋のホテルに負けないということが大事で、それさえきちんと担保されれば、日本に行ったら日本旅館という選択肢が自然に受け入れられる」  「機能的に足りないところを修正しながら、変えてはいけないところは変えない。概念的には、旅館が進化した形で、どこからみても旅館だけど、機能性や快適性で何ら大手の外資系ホテルに妥協するところがない、というのが開発のテーマ。星のや東京がオープンすることで、浴衣を着て大手町を歩いてもらう、みたいなことがあると面白いな、と思っている」  本業で失敗しも学びがあるが、サイドビジネスは本当のロスになる  ―これまでの企業経営の経験の中から、経営者として成功に最も必要なものは何だと思いますか。  「本業からぶれないことが大事だと思う。星野リゾートもこれまで、投資のタイミングや施設の改装・改築が過剰だったり、経営判断の間違いもあったが、本業をホテルの運営と定義して、そこからぶれなかったことがよかった。本業での間違いから学ぶことはプラスになるが、サイドビジネスで失敗すると痛手だけを被り、本業は停滞してしまう」  「本業で失敗して損をしても反省して学べることがあれば、勉強代としての投資にもなるが、サイドビジネスのロスは本当にロスになる。常に意識しているのは稼働率、単価、顧客満足度くらいで、いつでも夢に向かって進める活動をしていきたい。寄り道せず、まっすぐ向かう。注意しているのはそのぐらいだ」   <プロフィール>  星野佳路(ほしの・よしはる)  慶應義塾大学経済学部卒。米国コーネル大学ホテル経営大学院で経営学修士号を取得後、シティバンクなどを経て1991年、星野リゾート代表取締役社長。観光リゾート業界の風雲児として頭角を現し、日本の観光産業振興のカギを握る経営者として注目されている。長野県軽井沢生まれ。初代の星野嘉助が生糸業を興し、所有していた中軽井沢の山林に温泉を掘って旅館業を始めた。55歳。

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