供給インフラ不足も、水素エネルギー利用が静かに広がる理由

ホテルやコンビニ、FM放送局で

楽天生命パーク宮城に設置された純水素燃料電池「H2One」

 水素を直接、発電などに利用する「純水素燃料電池」の設置が増えてきた。水素の供給インフラが整っていないにもかかわらず、ホテルやFM放送局、コンビニエンスストア、プールなどで純水素燃料電池が使われており、東芝は燃料電池を100台出荷した。予想よりも速く、水素社会が身近になるのかもしれない。  今月上旬、川崎市の臨海部で純水素燃料電池を設置した「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」が開業した。ホテルの目の前にある黒い装置が出力100キロワットの純水素燃料電池だ。電気とお湯を作りだし、5階建て客室186室のホテルのエネルギー約30%を賄う。  水素は5キロメートル離れた昭和電工の工場で作られ、パイプラインによってホテルへ送る。同社は川崎市内で回収した廃棄プラスチックから水素を精製し、アンモニア製造の原料にしている。水素を地域で循環消費する環境省の実証事業に採択され、ホテルでのエネルギー利用が始まった。  宿泊者が使ったプラ製の歯ブラシや櫛(くし)も廃棄せずに、昭和電工の工場で水素にする。東急ホテルズの小林昭人社長は「ホテルで使用済みとなったプラが水素となり、ホテルのエネルギーになる。まさに資源の地産地消だ」と強調した。ホテルの建設を担当した大和ハウス工業の石橋民生副社長は「廃プラ由来水素をエネルギー利用するホテルは世界初。世界に発信したい」と意気込んだ。  燃料電池は基幹部品「セルスタック」で水素と酸素を反応させて電気を作る。家庭用燃料電池(エネファーム)は都市ガスや液化天然(LP)ガスを改質器に通し、取り出した水素をセルスタックに供給する。これに対し、純水素燃料電池は水素を直接、セルスタックに投入するため改質器がない。その分、起動が速く、出力を素早く切り替えられるメリットがある。  ただ、都市ガスやLPガスは供給インフラが整っており、エネファームは導入しやすい。一方の水素インフラは供給が燃料電池車の水素ステーションぐらい。それでも純水素燃料電池が増えているのは、さまざまな方法で水素を製造できるからだ。  太陽光や風力発電といった再生エネと水があれば水素を作り続けられる。再生エネ由来水素なら化石資源を使わず、二酸化炭素(CO2)の排出もない。廃プラから精製した水素も、化石資源の有効利用となって低炭素化に貢献できる。  プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地「楽天生命パーク宮城」(仙台市宮城野区)でも今春、純水素燃料電池を使ったFM放送が始まった。FM局は球場の敷地内にあり、楽天球団が運営する。水素も敷地内にある東芝エネルギーシステムズ(川崎市幸区)の水素製造・発電装置「H2One」が供給する。  H2Oneは水素を作る水の電気分解装置、水素タンク、純水素燃料電池をコンテナ1台に収めた。太陽光パネルが発電した電気によって電解装置を動かして水素を製造し、純水素燃料電池に送って発電する。楽天球団によると放送に必要な電気の一部をH2Oneで賄っているという。水素は貯蔵しておけるので、夜間ゲームの放送にも電気を供給できる。宮城県が楽天生命パーク宮城にH2Oneを導入した。太陽光と水があれば水素を作り続けられるので、停電時でも災害放送に使う電気を供給できる。  東芝エネはH2Oneに搭載した製品を含め、純水素燃料電池を100台販売した。100キロワットまで品ぞろえしており、温水プールやセブン―イレブン、川崎市の東急REIホテルにも採用された。東芝エネ次世代エネルギー事業開発プロジェクトチームの大田裕之統括部長は、「大規模化し、離島、中山間地域の電源にしたい」と意気込む。  再生エネで水素を製造して貯蔵し、大型燃料電池で発電して島の電力網に送るイメージだ。電気を作る発電コストは「いずれ1キロワット時40円はいける」(大田部長)と見込む。ほとんどの離島はディーゼル発電機で電気を賄う。燃料の輸送費もあって本土よりも発電コストは高い。「小さな離島ならディーゼル発電を代替できる」と期待する。  ブラザー工業が2月、4・4キロワットの純水素燃料電池の受注を始めた。非常用電源が主な用途で、東芝、富士電機に続いて3社目の製品化だ。パナソニックは5キロワットの純水素燃料電池を開発中だ。エネファーム最大手の同社にとって初の業務用燃料電池となる。店舗など小規模施設での利用を見込む。  パナソニックアプライアンス社燃料電池企画部の加藤玄道部長は「エネファームのセルスタックを転用している」と語る。エネファームで12万台の実績があり、セルスタックの信頼性が高い。ただし、単純に700ワットのエネファームの7倍のセルスタックを搭載して5キロワット機にするわけではない。純水素燃料電池になると水素以外の物質の投入がない分、セル1枚の発電が増えるため、小型化できる。ただ、水素と酸素の反応による水の発生量が増えるため、排水経路の設計に工夫が必要という。  エネファームと同じ700ワットの純水素燃料電池も開発し、山梨県の施設で実証運転を続けている。20年以降、700ワットと5キロワットの2機種の純水素燃料電池を製品化する。  ただ、普及には政府の後押しが欠かせない。エネファームは日本が世界に先駆けて09年に製品化した家庭用燃料電池だが、赤字に耐えられず撤退が相次ぎ、残ったメーカーは2社だけになった。政府は30年にエネファーム530万台の導入を見通すが、まだ20万台を超えたばかりだ。政府は17年末、水素基本戦略をまとめ、あらためて水素社会実現に取り組む姿勢を示した。官民一体で普及に取り組まないと純水素燃料電池も苦戦するエネファームの二の舞いになりかねない。

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