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中山亮太郎マクアケ社長 進化するクラファン、金融機関や自治体へ拡大

シェアリングを創る人たち~価値の大変革~(4)
 インターネット上で不特定多数の方々から資金を集めるクラウドファンディング(CF)は個人の夢や挑戦に対して共感した人が出資し、一緒に成長をシェアできることから、お金の分野のシェアリングエコノミーと呼ばれている。日本では、2011年3月に発生した東日本大震災をきっかけに、寄付の手段として広がった。実際は、通常の寄付以上に使途が明確であり、見返りも期待できるなどの利点がある。そのため、近年は挑戦をシェアできるとして、ベンチャーや中小企業を中心に新製品や新サービスのテストとして活用が拡大。今では、その結果を金融機関が与信審査の判断材料とすることもある。個人や企業のほか、ふるさと納税を扱う自治体が利用できるCFも登場している。CF市場をリードするマクアケの中山亮太郎社長に現状を聞いた。

挑戦者がヒーローになる


-世界中で注目を集めた「この世界の片隅に」のアニメーション映画化や、馬肉専門店「ローストホース」を立ち上げなど話題のCFプロジェクトが花開いていますね。
 「この業界では、とにかくアイデアを出し、挑戦した人間がヒーローになる。我々は、プロジェクトを立ち上げた方々を『実行者』と呼んでおり、プロジェクトに共感し参加する方々を『支援者』と位置づけ、両者を結びつけている。すでに4000件以上のプロジェクトを掲載し、プロジェクト1件当たりの平均資金調達額は約200万円となった。サービスを始めた13年は数十万程度だったが、この2-3年で数倍ずつ増えている」

-中堅・中小企業など法人のプロジェクトも増えてきていると聞いています。
 「特に地方にある企業の新製品や新サービスを打ち出す、スタートの場となっている。中には1000万円を超えるプロジェクトもあり、大型の資金調達事例は90件以上だ。中堅・中小企業がCFを利用するメリットは主に三つある。製品を量産する前にマーケティングとプロモーションができることに加え、試作の段階から前倒しで資金計上できることだ。これは製造業などの中小企業にとっては、低リスクでどんどん試作品に挑戦できることを意味する」
 「ただ、個人に向けてインターネットサービスが広がっていく速度と比べて、中小企業など法人がCFを利用していく速度は同じではない。プロジェクトの内容が難しくなり、成功する難易度も高くなる。そのため、プロジェクトの魅力を引き出すべく、当社の事業も強化している」

中山社長は「中小企業の試作品、金融機関の市場調査などにCFは最適だ」と話す

金融機関の選択肢としてのCF


-具体的にはどのように強化していますか。
 「支援者に向けてプロジェクトを発信したり、掲載する際にプロジェクトの魅力を最大化するための演出力や編集力などに力を込めている。支援者は個人が多く、多様化しているため、実行者が中小企業であることは関係がない。事業の専門性や製品の独創性をわかりやすく伝える必要がある」
 「また、中小企業の(実行者の)発掘に向けては、地域の金融機関など約100社と提携している。金融機関が融資先へ営業する上での支援ツールとして、当社のCFが選ばれている。そのため、中小企業が金融機関にアイデアや融資の相談しているなど、事業の早い段階で実行者の候補を探すことができる」

-CFは、金融機関やベンチャーキャピタルなどの投資ファンドと競合するのでは。
 「近年はリレーの関係に変化している。CFは、ユニークなアイデアや製品を持つ企業の“滑走路”のようなポジションだ。先見性やリスクもバラバラだが、とにかく飛ばしてみるかという段階で利用できる。そのため金融機関も、まず顧客への接点としてマクアケを紹介するケースもあり、その後、融資などに発展することも少なくない」
 「また、そのときの事業性判断においてもメリットがある。金融機関はビジネスモデルや財務指標の審査においてはプロフェッショナルだが、奇抜な商品などの評価はどうしても市場調査の視点が求められる。例えば、これから投入しようとする新製品の需要が、CFを行うことである程度分かる。中には数人しか買わない製品であっても、需要を顕在化させたことで製品の改良につながる。掲載したプロジェクトに対する反応やコメントなどが参考になる場合もある」

CFを用いて、アイデアや挑戦の最大化を実現する

**ふるさと納税を利用した自治体向けCF
-個人や企業向けCFだけでなく、自治体向けCF「マクアケガバメント」を始めました。
 「マクアケガバメントは地方自治体が手がける、『ふるさと納税』を支援するCFだ。地方自治体が実行者となり、プロジェクトへの寄付を募る。通常のふるさと納税と同様、寄付者には、返礼品が届くだけでなく、所定の手続きを行うことで、寄付金額の一部が所得税や住民税などから控除される」
 「ふるさと納税はこれまで、返礼品を目的とした寄付が増え、行き過ぎた返礼品競争を招くなど問題が生じていた。一方で、寄付金がどのように使われているかなど使途についてはあまり着目されていなかった。マクアケガバメントでは返礼品目的でなく、使途目的の寄付参加を促しつつ、自治体の挑戦やアイデアをシェアや拡散していきたい」

-ふるさと納税を地方創生のカギとする自治体も多いですが、手応えはいかがですか。
 「自治体の方々から『待ってました』との声が多かった。第1弾として岡山県西粟倉村や京都府宇治市、北海道下川町、北海道紋別市でプロジェクトを開始している。全市中村を対象としているため、引き合いも強く、今後も拡大する見込みだ」
 「ただ、我々は地方創生に特化してやろうと旗印したわけではない。CFの利用を拡大させるためには、製造業などが多い地方の中小企業や金融機関、自治体と関係を深める必要があった。結果的に全国津々浦々までCFを拡大したが、地方創生に関してCFは万能ではないということを分かって欲しい。アイデアや挑戦があってこそ、シェアし支援することができる」

(文=渡辺光太、写真=編集委員・木本直行、デザイン=堀野綾)

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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
シェアリングビジネスでは自身(自社)の持っているスキルや物件、アイディアをうまく表現することが求められる。記事でもあるように中小企業など法人にとっては、金融機関などにうまく表現できないビジネスもあっただろう。そのため、一度CFを使って、試作品を市場投入して実際に需要を浮き彫りするなどの使い方ができる。また、地方自治体に関しては、必ずしも客観的な視点を交えて、地域の魅力を伝えていくことが得意なわけではない。そのため、ふるさと納税ではわかりやすい返礼品ばかりに注目されてしまっていたが、自治体の寄付の使途や具体的な挑戦に向けて、個人が支援するというのが真骨頂だ。行政への新しい市民参加とも考えられる。CFの応用方法は多彩であり、今後、どのようなプロジェクトが生まれるか、数々のチャレンジを成功に導いてきたマクアケに期待が集まる。

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