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はやく書くためのテクニック【文章ゼミ #7】

骨組みを作り、書けるところから書く
この記事のポイント
1、まずは求められる品質を見極める
2、全体から部分へ、絵画のデッサンのように
3、書けない時にも執筆を進める方法



 仕事のアウトプットは「作業の質」と「作業時間」の積である。「作業の質」を無視して徒に作業時間をかけても,良いクオリティも良い報酬も得られない。

 また,収穫逓減の法則(*)から,受け手が満足するレベルまでに仕上がれば,そこで作業を止めるべきだ。グローバル競争で負けた日本企業には,お客様第一に起因する過剰品質問題があった。読み手市場(読み手市場とは?「#2 コミュニケーション論から見た技術文書」を参照)で許されるレベルの品質を提供する市場第一主義が,はやく書くためのコツの一つである。
*しゅうかくていげんのほうそく・・・土地,労働,資本の投入から得られる収穫は,それらの投入量の増加に従って増えるが,その増え方は徐々に小さくなるという法則。

 全体のトーンが見えないまま第1章から順番に書いていくと,論理展開が海図のない航海のように,その場その場の判断で曲折しやすくなる。全体像を確立するのが先だ。絵を描くときに初めにホワイトカンバスにデッサン(素描,下絵)するのと同じである。手前の草木から絵筆で順番に完成させてゆく風景画家はいないだろう。

 全体から部分へと書くテクニックとして,タイトルとキーワードなどを書き込んだ原稿仕様書(「#4 生産性の高い書き方」を参照)にしたがい,まず「主題文」だけを書き文書の骨組みを作る。この骨組みは完成後に作成するSummaryと違って,建設途上に作るFrameworkのようなものである。このフレームの主題文だけを読めば,全体の論理の流れがチェックできる。

 骨組みの「主題文」を順番に読んで不自然であればおかしな個所を組み直し,同時に対応する原稿仕様書の個所を修整する。こうして「主題文」だけの原案に,書きやすい所や,気乗りした所から裏付け文を肉付けしてゆく。
作文と借文で全体を肉付けしてゆく

 この時,正確でうまい表現ができないところは,文章をネットなどから借用する。自分で書いた作文と,コピペした借文で全体を組み立てる。借用が誤って盗用にならぬよう借文は赤字にしておき,思いついたときに黒の作文に交換する。図表についてもと同様に作図と借図で全体を組み立てる。

 こうして裏付け文を肉付けしてゆき,あるレベルに達すれば執筆は完了である。
完成イメージ

*次回掲載日と内容は未定
この連載について
筆者プロフィール:廣田幸嗣(ひろた・ゆきつぐ)
1946年生まれ。1971年、東京大学工学系研究科電子工学修士課程修了。同年,日産自動車入社。同社総合研究所でEMC,ミリ波レーダ,半導体デバイスなどの研究開発に従事。この間,商品開発本部ニューヨーク事務所に3年間駐在。2015年3月まで,日産自動車で技術顧問,カルソニックカンセイでテクノロジオフィサ,放送大学非常勤講師。
人工知能学会理事,技能五輪シドニー大会電子組立エキスパート,東大大学院非常勤講師などを歴任。

主な著書
「とことんやさしい電気自動車の本 第2版」 (日刊工業新聞社)
「ワイヤレス給電技術入門」 (共著,日刊工業新聞社)
「電気自動車の制御システム」 (編著,東京電機大学出版局)
「電気自動車工学」 (編著,森北出版)
「パワーエレクトロニクス回路工学」 (編著,森北出版)
「バッテリマネジメント工学」 (編著,東京電機大学出版局)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
文章に限らず収穫逓減の法則を忠実にやってみればより良くなりそうなものが多く見られます。

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