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世界最高水準の博士教育を支援する「卓越大学院」は毒まんじゅうなのか

各大学、補助金漸減に戸惑い
世界最高水準の博士教育を支援する「卓越大学院」は毒まんじゅうなのか

大学関係者が卓越大学院の公募説明会に駆けつけた(4月25日、文科省)

 文部科学省の2018年度の新事業「卓越大学院プログラム」の申請が迫っている。世界最高水準の5年一貫の博士教育を行う大学を支援する事業で、悩ましいのが補助金の厳しさだ。実施の7年間、補助金額は次第に減り最終年度は初年度の3分の1となる。資金的自立という“毒”を含み“毒まんじゅう”とも呼ばれるプロジェクトに各大学の悩みが渦巻いている。

資金的自立、補助金漸減策が痛手


 卓越大学院は産・学・官などあらゆるセクターを率いる人材養成に向けた博士前期・後期課程の一貫プログラムだ。企業や外国機関、他大学など学内外連携が必須だ。イノベーション創出の高度人材育成に向け、政府で数年前から議論されてきた肝いり事業だ。

 しかし4月に示された公募要領で、各大学を「寝耳に水」と慌てさせたのが大幅な補助金漸減策だ。これまでも中間評価の結果によって補助金が増減する事業はあった。しかし今回は、初年度から独自の資源の投入を求め、4年度目の支援は半額と段違いに厳しい。文科省高等教育局の義本博司局長は「産業界など外部の資金獲得か、学内の資金集中投下かで、自立できるか応募判断をしてもらう」と説明する。

 背景にはこれまで国の支援事業で「終了後は自立を」とされながら、採択機関が自主財源での継続をうやむやにする例が多かったことがある。公募要領は当初、年明け早々に出るといわれており、これだけずれ込んだのは財務省との調整に時間がかかったためだ。

悩み渦巻く


 ある大手私立総合大学の幹部は「産業界とのコンソーシアム(共同研究体)で資金の準備ができている」というがこれも初年度分の話。ある中小規模国立大学の学長は「ひどい話だ。あまり大きくない規模で提案する」と計画を見直したことを打ち明けた。

 中小規模の理工系国立大の学部長は「社会の予想外の変化が起こっても対応できるよう、大学は地味な分野もカバーする必要がある。全資源を使ってこの事業に取り組むのが得策かどうか…」と迷いを隠さない。東京工業大学の益一哉学長は「産学連携を掲げる本学は応募の予定だ。しかし各大学とも理学など基礎的な分野は厳しく、部局の壁を越えて全学協力体制が築けるかどうかが分かれ目だ」とみる。

 「毒まんじゅう」はおいしそうだと食した後に、毒が回ってくる事柄の例えだ。しかし今回は、毒が明らかな特殊なまんじゅうとして、この言葉が関係者の間で飛び交っている。最初に口を付けるのはどこか。申請は6月4―6日だ。
 
日刊工業新聞社2018年5月31日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
総合大学といっても、全学的な地域貢献で成功しているところは同事業に関心は薄い。申請に悩ましいのは、理工系での産学連携で、それなりの実績がある地方大学という印象だ。毒素は壮年期の人にはたいした影響がなくても、高齢者や幼児には致命的だ。各大学はそれぞれの実力や体力を考えての申請になるだろう。

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