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【松尾豊】ディープラーニングでビジネスチャンスをつかむために必要なこと

松尾豊氏 東京大学特任准教授、日本ディープラーニング協会理事長
 人工知能(AI)の中で最も多くの技術革新を起こしているディープラーニング(DL、深層学習)で、ビジネスチャンスをつかむために必要なことは何か。日本ディープラーニング協会(JDLA)理事長を務める東京大学の松尾豊特任准教授は、「やったもの勝ちだ」と強調する。今、必要なのは、ただ知ることではなく、行動するための知識だ。

薄く広くでは負けてしまう


 -DL活用の現状をどうみていますか。
 「DLは数十年に1度の技術革新だ。画像や音声などの処理に強みを発揮し、医療や監視カメラで活用が進む。ロボットや機械は対象を認識する目を持ち、動きが高度になる。言葉にひも付けて理解できるようになり、言葉から知識を獲得できるようになる」

 -日本の現状は。
 「多くのビジネスチャンスが転がっているが、日本ではDLの活用が進んでない。やらない理由を探しているようにも見える。産業の戦いでは、『どうやって稼ぐか』を考え、逆算して行動に落とし込むことが重要だ。ルーレットで全てに賭けるのと同じで、AIに薄く広く取り組んでいると負けてしまう。企業はどう稼ぐのか意思決定して、ドカンとやらなければいけない」

 -松尾先生はベンチャー企業の育成にも携わっていますね。
 「日本全体がまだうまく動いていない分、多くのチャンスがある。国単位では米中などと日本の差は大きいが、個人や企業の活躍は可能だ。ベンチャー育成の取り組みは着々と進んでいる。若いエンジニアはどんどんDLをやってほしい。また、始めるきっかけづくりとして、大人は若い人や学生に『DLをやってみたら?』と声をかけてみてほしい」

 -JDLAが始めた検定試験の手応えは。
 「事業に活用する人向けの『G検定』を昨年実施し、学生を含めて幅広い業種から約1500人が申し込んだ。6月に2回目のG検定、9月にエンジニア向け試験を行う。利用者も正しい知識を持つことで、産業は発展する。例えば、一般的な自動車の知識が『油で走る』や『人を殺すこともある』程度では、自動車産業は成長しなかった。DLも検定を通して多くの人に歩み寄ってほしい」

松尾豊氏

やったもの勝ち!高校生もできる


 -学生も始めているのですね。
 「ウェブの黎明期と同じで、早く始めた人ほど得をする。〈やった者勝ち〉だ。プログラミングには数学の知識が必要だが、高校生なら始められる。高専の学生も有望だ。技術を持つ地元企業と協力することもできるだろう。半年間しっかり勉強すればかなり成長する。私が高校生なら、寝る間も惜しんでプログラミングをする」

 -AIについては多くの情報が飛び交っています。AIが普及した社会がどんなものか、想像しにくい人もいるのではないですか。
 「自分で意思決定しようと思って情報を見れば、わかり方が変わる。例えば、複数の飲食店のメニューを比べる時、ぼんやり眺めるのと、予算を決めて選ぶのは違う。さらに、選んだものを食べれば、何がおいしいかわかる。DLも知識を得た後、簡単なプログラミングで手を動かしてみるといい」

 -日本企業では若い人材が活躍しにくいと指摘されています。
 「この分野で能力ある20代が活躍できないのは致命的だが、人事制度の問題を言及するのは〈できない理由〉探しにしかならない。できない理由やリスクは多く、対処は必要だが、『稼ごう』という時、最初にそれを考えるのはおかしい。どう稼ぐか戦略を立て、リスクを取って自分の能力を試す人が増えれば、日本は変わる」
【用語説明/ディープラーニング】
機械学習の手法で、脳の神経構造を模したニューラルネットワークを多層に重ねたもの。画像や音声、自然言語処理で他手法を圧倒する性能を示す。研究の進展に加え、学習に使うコンピューターの能力向上や、データ調達の容易化によって十分学習できるようになり、性能が高まった。
                     

日本ディープラーニング協会ホームページ
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
AIについて、どんなに多くの情報に触れても、将来の社会を具体的にイメージすることは難しいと思っていました。でも、松尾先生の話を聞いて、情報への向き合い方が違っていたと気づきました。まずは検定を受けて、手を動かすことから始めようと思います。

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