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気象庁が処理能力10倍のスパコン導入、天気予報で新しくできること

気象災害の被害低減など期待
気象庁が処理能力10倍のスパコン導入、天気予報で新しくできること

6月に運用を開始するスパコン

 気象庁は6月から新しいスーパーコンピューターの運用を始める。激甚化する集中豪雨や台風被害。国土交通省が「新たなステージ」と位置づけて危機感を示す近年の降雨は、地球温暖化の進行に伴い、リスクをさらに増す。10代目に当たる新スパコンの性能は従来に比べて約10倍。降水量や台風予測を高精度化、早期化し、気象災害の被害低減につなげられると気象庁は意気込む。長期天候予測を強化し、商品や電力量の需給予測といった企業活動での気象情報の利用拡大にも応えていく。

官公庁初


 1959年に、日本の官公庁で最初にスパコンを導入した気象庁。16日の会見で橋田俊彦長官は「スパコンによる数値予報は、社会活動を支える気象情報の根幹。計算機資源をしっかり確保して技術を取り込み、その精度を向上することが不可欠」と話した。

 東京都清瀬市の気象衛星センターに設置した新スパコンは、日立製作所が調達した米クレイの「Cray XC50」。理論演算性能は、現行の約20倍の18ペタフロップス(ペタは1000兆、フロップスは浮動小数点演算性能)。業務処理能力は、約10倍になる。

 期待されるのが、計算に複数の初期値を使う「アンサンブル予測」手法の導入拡大だ。集中豪雨や暴風は局地的に起こるため、予測位置のズレはわずかであっても、防災には大きな課題となる。

21の初期値


 こうしたズレは、初期値に含まれるわずかな誤差の拡大が主な原因とされる。集中豪雨を予測するメソモデルでは、従来一つの初期値を使っていたが、アンサンブル予測では21の初期値を与えて計算。最も起こる可能性の高い現象を見極められる。

 詳細な降水予報は、現行より9時間長い15時間先まで可能となる。早めに警戒情報を出すことで、危険を伴う夜間の避難を減らす。

 また、台風の強度予測を従来の3日先から5日先に延長。従来は、進路予測のみ発表していたが、中心気圧と最大風速も示すことで、より適切な防災対策につなげられる。

 長期天候予測の強化も、目玉の一つだ。19年6月をめどに開始する「2週間気温予報」は、農業のほか、食品などの製造業、電力、アパレル業界など産業界で特に要望が強かったという。

 気象庁の木村達哉情報利用推進課長は、「AI(人工知能)などの技術進展で、幅広い分野で気象データを利用した生産性向上が期待されている」と話す。取り扱えるデータ量の増加で、日射量や紫外線量など、各産業で役立つ気象情報の充実も期待される。
日刊工業新聞2018年5月17日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
スパコンの能力を最大限活用できるよう、数値予報モデルの開発も重要さを増す。スパコンは海外と同程度の頻度で更新しているが、欧州に比べ、日本の数値予報の誤差はまだ大きい。山本太基予報部業務課調査官は、「計算能力向上だけで予報精度が高まるわけではない。数値計算のアルゴリズムなど新規の開発も重要だ」と強調。今後、大学など外部機関との連携を強化する方針だ。 (日刊工業新聞社・曽谷絵里子)

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