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「後発中の後発」が大手の一角になれたワケ

飲料受託製造企業ハルナビバレッジの成長戦略
「後発中の後発」が大手の一角になれたワケ

生産量は創業から右肩上がりを続けている

 青木清志氏(ハルナグループ名誉会長・創業者)は当時、商社を定年退職したばかりの62歳だった。1996年、すでに多くの企業がひしめいていた飲料業界にゼロから参入。それから22年がたち、ハルナビバレッジ(群馬県高崎市)の売上高はすでに200億円を超えている。いまだ群雄割拠の飲料受託製造企業(パッカー)の中にあって、「流通や小売りのプライベートブランド(PB)向けでは大手の一つ」(青木麻生社長)と言えるところまで成長した。

成熟市場でも成長続ける


 同社は榛名山の麓を拠点とし、飲料メーカーや流通、小売りから飲料の製造を受託。大手のナショナルブランドや、大手コンビニエンスストアのPBなどを幅広く手がける。M&A(合併・買収)も進めたことで、現在は群馬本社にあるハルナプラント(3ライン)のほか、タニガワプラント(群馬県みなかみ町、2ライン)、ハルナジョイパック(和歌山県海南市)の合計6ラインで年間2999万ケース(2017年3月期)を生産。そのほか協力工場への委託も含めると4201万ケース(同)に達する。生産量は創業から右肩上がりを続けており、2017年3月期は前期比7%増。国内の清涼飲料水市場は成熟しているが、業界を上回る成長を続けている。

 「後発中の後発」(同)でありながら、同社が成長軌道に乗れたのは、創業時から小型ペットボトルの普及を確信していたからだ。海外では小型ペットボトルのミネラルウォーターは一般的だったが、日本で業界の自主規制が解禁されたのは1996年。創業と同じ年だ。商社時代から海外を飛び回っていた青木名誉会長は日本でも小型ペットボトルが普及することを確信し、立て続けに製造ラインを増強した。もともと飲料大手は自社工場に加え、傘下に受託会社を抱えるが、ペットボトル飲料の急成長に対応するため、ハルナビバレッジにも頼らざるを得なかったわけだ。

提案営業でPB向けを拡大


 しかし現在の売上げ比はNBが2割でPBが8割と、流通、小売りの独自ブランド向けが圧倒する。現社長の青木麻生氏が父から社長を引き継いだのが2009年。そのころからPBへの提案営業を強化する方向に転じた。「NBはスペックが最初から決まっており、高効率、低コストで生産するだけ。これでは商品企画から開発まで含めたメーカーとしての力がつかない」(同)と判断したからだ。ちょうどPBの存在感が高まり始めていたころで、企画から開発、生産、物流までのバリューチェーンをトータルで提案し、顧客を開拓していった結果が、現在のPB8割につながっている。

 後発である同社はNBでも新分野の小ロット品の受託からスタートしており、多品種少量の生産を得意としていた。しかしPBでは生産品目がさらに多岐にわたる。同じ小売り向けでも、コンビニやスーパー、ホームセンター、ドラッグストアなど業種はさまざまで、必要とされる商品の価格帯も異なる。そのため同社では年間で500~600品目もの商品を作り分けている。青木社長が「10年かけて磨いてきた」と自信を示すように、これだけの商品を高品質で効率良く生産し、顧客に届けるノウハウは一朝一夕にはできない。

付加価値高め質的成長へ


 今後、同社ではさらに「マーケットイン、カスタマーインを追求する」(同)。茶葉や果汁など原料メーカーと提携することで、原料から商品のパッケージまでトータルで商品コンセプトを提案し、差別化につなげるほか、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品の提案にも力を入れる。「市場はどんどん変化し、多様化する。それに幅広く対応し、付加価値を高める質的成長を目指す」と青木社長は意気込む。

 10年以上前から、同社は株主や地元の取引先、金融機関に対して、四半期ごとに事業報告会を開催している。上場は予定していないが、急成長を遂げてきただけにガバナンス強化も課題とする。加えて「ステークホルダーとともに成長する社会に開いた会社になりたい」と青木社長は話す。創業から20年を超え、すっかり地元に根付いてきた。

【企業情報】
▽所在地=群馬県高崎市足門町39-3(群馬本社)▽社長=青木麻生氏▽創業=1996年2月▽売上高=211億円(2017年3月期)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
成熟してても、後発でも、どこに着目して何をやるかで大きなチャンスをモノにできるようです。何かを始めるわけではないですが、勇気がわく記事でした。

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