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武田薬品、シャイア―買収で国内製薬に広がる波紋

他の日系企業に問われる生き残り戦略
武田薬品、シャイア―買収で国内製薬に広がる波紋

新薬を評価する枠組みが縮小され中堅製薬は厳しい環境に(イメージ)

 武田薬品工業は8日、アイルランド製薬大手シャイアーを完全子会社化するための買収手続きを開始することで同社と合意した。買収額は約460億ポンド(約6兆8000億円)。この買収は日本の製薬業界に波紋を広げそうだ。事業規模は競争力に必ずしも直結しないと考えるメーカーが多くあるものの、識者からは国際競争を勝ち抜くためには規模が必要との声があがる。武田のシャイアー買収により他の日系企業は規模面で大きな差をつけられることになり、自らの立ち位置や生き残り戦略があらためて問われる。

トップ10入り


 「(武田と自社では)会社のネイチャー(性質)が違いすぎる。先方がやること自体に私どもは興味がないし、わが社の戦略は変わらない」。アステラス製薬の安川健司社長は、武田のシャイアー買収についてこう語る。

 武田は約460億ポンド(約6兆8000億円)でシャイアーを買収する計画を示し、同社との交渉を続けてきた。日本企業による海外企業の買収案件では過去最高額となり、武田は世界の製薬業界で上位10社内に入る。他の日系製薬企業を引き離すことになる。

 一方、アステラスは大学やベンチャー企業といった外部機関と連携して研究開発を行うオープンイノベーションに注力。近年は数百億円規模のM&A(合併・買収)で開発品を確保するなどしてきた。「当社は単に規模を大きくすれば良いというような部署はもうない」(安川社長)と判断している。このように、事業規模が競争力に直結しないとの見解は従来、日本の製薬業界で多く聞かれる。

中堅には痛手


 だが製薬業界に詳しい二松学舎大学の小久保欣哉准教授は「規模はあった方が良い」と話す。その理由として、他社の開発品を取得する場合にも海外での販路や目利きが必要になると指摘。それがないと「現地の人に(有望な技術や開発品を)とられてしまう。残りカスのようなベンチャーをつかまされる可能性もある」とし、オープンイノベーションにも一定の規模が必要とする。

 もっとも、アステラスの安川社長は自社のM&A予算について「上限の計算をしたことはない」とも述べ、将来の大規模M&Aの可能性を完全には否定していない。同社や第一三共といった大手は海外に研究開発拠点や販路を持ち、目利きを行いやすい体制にある。

 より深刻な状況に置かれているのは、国内での売上比率が高い中堅製薬企業だ。日本では薬価制度抜本改革に伴い、2018年度からは新薬を評価する枠組みが縮小された。後発薬の普及も進み、特許が切れた先発品である長期収載品のシェアは急速に減りつつある。こうした動向は品ぞろえの少ない中堅メーカーに大きな痛手となる。

同族が足かせ


 海外企業との合併で難局を打破する動きが出てきても良さそうだが、その可能性は低そうだ。外資系製薬企業の事業開発担当幹部は「日本の中堅企業はそもそもM&Aのショーケースに並んでいない。同族経営が多いからかな」と打ち明ける。
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
武田の挑戦をただ傍観するのか、それとも自社の生き残りに向けた発奮材料とするのか。国内各社の姿勢が問われる。 (日刊工業新聞社・斎藤弘和)

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