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プロサッカーチームが結んだ、沖縄の伝統工芸とスポーツ

プロサッカーチームが結んだ、沖縄の伝統工芸とスポーツ

若手作家の機織り作業を見守る赤嶺理事長(右)

 琉球王国の王府があった那覇市の首里地区で、王家や士族のために織られた首里織。沖縄がアジアと交易を重ねた14―15世紀に伝わった技術を発祥に、現在も那覇市を中心に産地を形成している。その約500年の歴史の中で、近年、プロサッカーチームの移動用ウエアという形で新たなページを開いた。

 襟とポケットにあしらった、首里織のブルーのグラデーション。右の胸には青に映える黄色の「OSV」のエンブレム。2017年に発売されたヨネックス製ウエアだ。開発には那覇伝統織物事業協同組合(那覇市、赤嶺真澄理事長)が参画し、生地をメーカーに供給した。同組合には首里織作家約90人が加盟する。行政との後継者育成事業も奏功し、毎年3―4人が組合員に加わる。若手が活発な背景を赤嶺理事長は「クリエイティビティを発揮し、作家の個性が出せるため」と説明する。首里織は工程を分業せず、デザインから糸染め、織りまで1人の職人が行うためだ。

 首里織の多くは反物や帯に用いられる。一方でバッグやテーブルウエアなど新分野にも積極的に取り組んできた。ただ、スポーツ分野との協業は異質にも見える。きっかけは沖縄で上位リーグを目指す新進のプロサッカーチーム「沖縄SV(エスファウ)」からのオファーだった。

 監督兼選手で社長も務める元日本代表の高原直泰氏が「スポーツと伝統工芸を結びつけたい」と提案。琉球びんがたと首里織が選ばれた。開発に携わった組合員の比嘉浩子さんは、機械織りが一般的なメーカー側と、使う単位や納期に対する感覚の違いに苦労した。だが最終的には「思いを受け止めてくれた」と満足げだ。「襟を立てたい」との高原氏のリクエストには、織りの細かさを変えて応えた。高原氏の海外での知名度もあり、製品発表会では外国人の受けも良かったという。比嘉さんは「追加発注や第2弾企画も、ぜひやりたい」と笑う。

「沖縄SV」が移動時などに使用するヨネックス製ポロシャツ

【メモ】首里織は首里地区に伝わる織物の総称。花倉(はなくら)織と道屯(どうとん)織、花織、首里絣(かすり)、首里ミンサーで構成される。沖縄各地に織物産地はあるが王家に献上したのは首里織のみ。朱色など鮮やかな色と大胆な図柄が特徴で、花倉織は王家の女性の夏衣に用いられた。舶来の染料などが使われ、着用は高貴な身分にのみ許されたという。
日刊工業新聞2018年4月26日
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
伝統工芸とスポーツとは遠い関係にも思えますが、工夫や熱意次第で結びつける方法はたくさんあるのかも知れません。地域密着の重要度が増すプロスポーツこそ、伝統を生かし、また伝統に生かされる面も多いのではと感じます。

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