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【グローバル日立#02】社長肝いりのM&A、この先に見据えるビジネス

米サルエアーの顧客4000社、「ルマーダ」の顧客候補に
【グローバル日立#02】社長肝いりのM&A、この先に見据えるビジネス

サルエアー公式フェイスブックページより

 日立製作所は2017年、産業機器関連で2件の事業再編を実施した。空気圧縮機メーカーの米サルエアーを買収する一方、子会社の日立国際電気の半導体製造装置事業を売却した。IoT(モノのインターネット)ソリューションで顧客の課題解決を図る「社会イノベーション事業」拡大を図る日立。産業機器領域での売り買いによる事業ポートフォリオ組み替えに、顧客開拓戦略の一端が垣間見える。

 二つの事業再編の注目点は、それぞれの機器台数ベースの市場規模にある。半導体製造装置は顧客は半導体メーカーのみで市場規模も限定的。それに対し、さまざまな機器の動力源となる空気をつくり出す空気圧縮機は、工場運営を支える縁の下の力持ちであり、台数規模も大きい。

 社会イノベーション事業拡大のためのIoTプラットフォーム(基盤)「ルマーダ」をどう売り込むか。青木優和日立副社長は「顧客の経営トップレベルへのアプローチに加え、工場など現場レベルでのアプローチも欠かせない」と指摘する。サルエアーは北米で販売店約200社を展開し、約4000社を顧客に持つ。中国にも販売網を有する。

 日立グループの空気圧縮機販売の販路拡大というメリットはもちろんだが、ルマーダの展開加速という側面でも「サルエアーの販売網を取り込めるのは大きなメリット」(青木副社長)と強調する。

 17年8月。米インディアナ州ミシガンシティに青木副社長ら日立幹部の姿があった。サルエアーの工場で買収の狙いや、今後の経営方針などを伝える「タウンホールミーティング」を開いた。イベントにはサルエアーの従業員約1200人とその家族も参加。着ぐるみで相撲レスラーに扮した幹部が、“土俵入り”するなど和気あいあいとした雰囲気で進んだ。

 サルエアーは「ファンドに経営を握られ不安定だった」(日立幹部)こともあり、日立による買収を好意的に受け止めた。理想的な形でPMI(買収後統合プロセス)に乗り出し、17年11月にはサルエアーに日立スタッフが着任。管理層だけでなく、現場レベルでも「ゴリゴリとPMIを進めている」(同)という。サルエアーの販路を活用し、ルマーダを多様な工場に提案する取り組みを早期に軌道に乗せたい考えだ。

 東原敏昭社長兼最高経営責任者(CEO)は、ルマーダ拡販のためのM&A(合併・買収)は積極的に進める考え。サルエアーという先兵が成果を出せば、工場での販路獲得を目的にメーカーを対象とした新たなM&Aを繰り出す可能性が出てくる。
日刊工業新聞2018年4月20日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
「IT、OT(制御技術)、プロダクツ(製品)の三つを保有している。これが当社の強み」と日立製作所の東原敏昭社長兼最高経営責任者(CEO)は強調する。製品を売って終わり、コンサルだけして終わりではなく、ビジネスモデルづくりから、実現後の運用までトータルでIoTソリューションを展開できる。また実際にモノが動く現場を熟知しているからこその「かゆいところに手が届く」サービスを提供できる。サルエアー買収で工場への販路を拡大した。“現場力"をキーワードにIT系のライバルと差別化を図る。

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