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トヨタ傘下だけでは限界、VWとの提携に踏み込んだ日野の覚悟

「日野はトヨタの中に組み込まれ、大胆な戦略が取れなかった」
トヨタ傘下だけでは限界、VWとの提携に踏み込んだ日野の覚悟

下日野自社長(左)とレンシュラーVWトラック&バスCEO(12日)

 独フォルクスワーゲン(VW)とトラックなどの商用車分野で包括提携することで合意した日野自動車。親会社のトヨタ自動車はVWとライバル関係にあるにも関わらず、なぜ?という疑問もある。両社の狙いは何なのかー。

 今回の合意について、ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表アナリストは、「日野自はトヨタの中に組み込まれ、大胆な戦略が取れなかった。高まる環境規制にグローバルで対応するには1社では限界がある。アライアンスを組むのは世界の自然な流れ」と分析する。

 日野自が海外の車メーカーと提携するのは日系商用車メーカーでは最後発だ。いすゞ自動車は1971年に米ゼネラルモーターズ(GM)と資本・業務提携した。06年に資本関係を解消しているものの、業務提携関係は継続している。三菱ふそうトラック・バスが独ダイムラーの傘下に入ったのは04年で、UDトラックスがスウェーデン・ボルボグループ入りしたのは07年だ。

 提携が深化すれば、日野自電動化技術で先行するVWの知見を取り込むことが可能になる。ある商用車業界の関係者は「(日野は)中・大型トラックで、欧州メーカーの電動化・自動化技術がほしかったのではないか」と見る。

 日野自の下義生社長は「トヨタとの関係は変わらない。トヨタの商用車ブランドとして協業する」としながらも、「商用車が直面している課題について、トヨタグループにいるだけでは解決が難しい」と認める。

 電気トラックなどの電動車両や自動運転車両の開発といった「乗用車の延長線上ではできない」(下社長)開発領域については、日野自とVWトラック&バスのアライアンスがリードしていくことになりそうだ。

 一方のVW。提携のメリットは、日野自が強みを持つ東南アジア市場の開拓だ。ただ、VWは09年に資本・業務提携したスズキと15年に資本関係を解消した経緯がある。

 親会社のトヨタとはライバル関係であることについて、VWの商用車事業の子会社「フォルクスワーゲントラック&バス」のアンドレアス・レンシュラー最高経営責任者(CEO)は、「商用車の分野で力を合致させるのが大事だ。VWがトラックバスを別の組織にしたこと自体が重要だ」とし、提携の成功を強調する。

 VWが提携のスタンスを軟化させた点も提携を進めたようだ。ある自動車業界アナリストは「VWは資本を求めて支配する傾向が強かった。今回は資本関係まで進んでいない。(支配よりも)実を取った提携だ」と話す。両社の資本を含まない緩やかな提携がアライアンス成長の推進力になりそうだ。
             


 
日刊工業新聞2018年4月13日の記事を加筆・修正
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 「自動車業界は100年に一度の大変革期。これまでと同じ価値の提供では、お客さまのニーズには応えられない。技術や商品、地域の観点で幅広い協業の可能性がある」。日野自の下社長は会見で、VWとの提携の方向性についてこう話した。日野自の2017年4―12月期の世界販売台数は国内とアジアが10万1331台で、全体の73%を占める。米国は4−12月期として初めて1万台を突破したが、欧州は1000台規模にとどまり、特に欧州市場の開拓が課題となっている。日野自は米国とロシアに新工場を新設する予定だが、今回の提携により、VWの販路を活用して欧州での販売増加を狙う。 (日刊工業新聞第一産業部・尾内淳憲)

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