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プログラミング教育、先生も試行錯誤

授業ノウハウ、蓄積・共有必要
プログラミング教育、先生も試行錯誤

御成門中での授業

 政府のプログラミング教育強化策を受けてロボットが学校教育に浸透し始めている。自分のプログラムでロボットが動くため普通の授業よりも生徒からの反応は良い。ただ限られた時間割の中で時間を捻出するのは簡単ではない。先行して取り組む学校では試行錯誤が続いている。カリキュラム開発の最前線を追った。

 「東京五輪でトイレや迷子、落とし物センターを案内するペッパーをつくりました」―。東京都港区の御成門中学校はソフトバンクの「ペッパー」を使った授業に取り組んできた。3学年228人が授業でペッパーを体験。2年生の90人を中心にロボットプログラミングに挑戦した。

 中学校では「技術」の時間で情報技術を教えている。2年生は通常の授業とは別に6時間をペッパーに充てた。指導した杉浦正一主任は「教員の出張で自習になる授業などを融通して時間を確保した」と振り返る。通常の授業で学んだ内容を手引きとして、ペッパーの会話や動きを作ってアプリ開発に取り組んだ。

 授業では、まず起動法や終了法を丁寧に教えた。ロボットがすぐに反応しないと生徒はボタンを連打し、フリーズさせてしまうことがよくあるという。

 ロボットに限らずフリーズすると授業が停滞してしまうが、「最初に教えたため授業が止まることはなかった」(杉浦主任)。

 また、ロボットが足りずに生徒に空き時間ができる課題に対しては、交代カードをつくりペッパーに触れる時間を均等に割り振った。ペッパーに触れない時間は机でロボットプログラミングを設計し、自分の順番で実際にプログラミングする。

 成績の付け方も難しかった。他の授業のようにテストで採点できないため、授業の最後にプリントを配り、プログラミングで考えた工夫や感想を書いてもらった。手探りで進める大変さはあったが、杉浦主任は「生徒の目の輝きが違う。やったかいがあった」と目を細める。

 ロボットならではの発見もあった。例えば東京五輪・パラリンピックの案内アプリでは音声認識機能を使い、声でトイレや迷子案内などの選択肢を認識していた。

 ただ競技会場など騒がしい環境では音声認識は難しい。「使用環境に応じてセンサーや対話手順を変えた方がよかった。タッチセンサーを使えば騒音や認識精度の問題を回避できたはず」と授業で指導した。

 これはプログラミングよりもユーザーインターフェースの部類に入る。教室を飛び出し、実際に試さないと気が付かない。御成門中の石鍋浩校長は「授業で学んで終わりではダメ。どう使って発展させるかが重要」と指摘する。ペッパーによって利用シーンを意識したプログラミング教育につながった。

 プログラミング教育は現在、先駆的な学校から事例が集まり始めた段階。授業しやすいカリキュラムが固まるには、もう1―2年かかるかもしれない。

 石鍋校長は「課題は技術としても教育としても発展途上のものを良しとする意識を教員がもてるかどうか。だがそれを良いものにするのが教育者だ」と強調する。ソフトバンクは社会貢献プログラムとしてペッパーを提供する教育機関を拡大する。特別支援学校など、より幅広い子どもたちに学びの機会が広がる。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年3月21日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
授業のノウハウが教育界に蓄積され、広く共有されることが望まれる。

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