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主戦場の米国を熟知するスバル次期社長、いきなり正念場

お世辞にも「好調」とは見えない計画
主戦場の米国を熟知するスバル次期社長、いきなり正念場

中村知美次期社長

 社長交代を発表したSUBARU(スバル)。次期社長中村知美専務執行役員は国内営業出身で、14年に米国販売会社の会長に就任。世界販売の約6割を占める屋台骨である米国事業の拡大に貢献してきた。

 同社は2018年暦年の世界販売計画を前年比2%増の108万台に設定している。北米が全体をけん引する見通しで、7年連続の過去最高を計画する。国内は新車投入効果の一巡などにより同11%減の15万7000台と2年ぶりに減少する。

 これはお世辞にも「好調」とは見えない計画だ。米国と日本の二本柱で飛躍的な成長を遂げてきたが、無資格検査、燃費関連疑惑で国内が大きく変調している。

 作れば売れるという状態であった米国も、2017年を境に勢いを喪失。中国は見る影もない。飛躍的な台数成長とブランド・企業価値の向上をもたらした吉永泰之社長。会長兼最高経営責任者(CEO)にはとどまるものの、自身は品質管理体制の強化などに従事に、販売は中村氏が主導することになるだろう。

 海外販売は同5%増の92万3000台を計画している。このうち主戦場の米国は同5%増の68万台と11年連続の前年超えを見込む。3列シートの新型スポーツ多目的車(SUV)「ASCENT(アセント)」の投入が、モデル末期に入る「アウトバック」「フォレスター」など主力SUVの減少分を補う考えだ。

 「正直、無資格検査問題の影響より米国の事業の先行きのほうが気になる」。スバルとの取引が多いあるサプライヤーは本音を漏らす。米国ではガソリン安の影響でセダンからSUVを含む小型トラックに人気がシフトし、完成車各社が販売強化策を打ち出している。

 こうしたあおりを受けスバルはセダン「レガシィ」の落ち込みに加え、主力SUVのフォレスターやアウトバックの販売が足元で減少している。

 「月5000台じゃ全然足りない。この車は売れるんだから、もっと作ってもらわないと困る」。スバルの幹部陣は米国で開いたミーティングで現地のディーラーから注文をつけられた。18年に新規投入するアセントの販売計画のことだ。

 「販売台数の規模を追わず1台、1台を大切に届ける」(吉永泰之社長)。スバルは車を安売りせず、車の付加価値向上を追求する戦略で成功してきた。中村次期社長もこの方針は変えないだろう。ただSUVを巡る他社との競争が激しくなる中、米国で支持される強い商品の投入が必要な局面にきている。

 スバルの経営は正念場だ。成長から持続的な安定への着地を実現できるか、真価が問われる局面である。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
「日本でもこの車は売れているのか」。ある米国スバルディーラー幹部は国内生産拠点がある群馬県太田市を訪れた際、スバル車の販売店に必ず立ち寄り、決まってこう質問する。店員が「売れている」と応えると満足げな表情を浮かべて帰って行くという。スバルの販売台数のうち日本は15%にとどまる。ただ米国のスバルユーザーやディーラーは母国市場の日本でスバル車がどれだけ評価されているかものすごくチェックしている。日本における信頼回復も当然欠かせない。

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