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企業創業者の大学への寄付、過度の期待は禁物!?

ぐるなび会長、東工大など3校に50億円。広く浅くも必要
企業創業者の大学への寄付、過度の期待は禁物!?

寄付により建設される東工大の建物内観イメージ(隈研吾建築都市設計事務所提供)

 ぐるなび創業者で会長・最高経営責任者(CEO)の滝久雄氏は、東京工業大学、お茶の水女子大学、東京芸術大学の3校に計50億円の寄付を行った。いずれも留学生と日本人学生の国際交流の建物建設に向けたもので、建築家の隈研吾氏が設計し、館内にはアート作品を展示する。寄付を通して自身の思いを実現する上で、出身校を重視しつつ他大学も後押しする点が注目される。

 滝会長の母校である東工大では、滝夫妻の個人寄付30億円で全建設費をまかなう。同大の提案により、建物名は夫妻の名を冠した「Hisao&Hiroko Taki Plaza」となる。

 大岡山キャンパス(東京都目黒区)正門すぐに位置し、地上2階地下2階建てで延べ床面積約5000平方メートル。世界的な漫画家、大友克洋氏のアート作品を置くのが特徴。18年中の着工で2020年10月に開設する。

 お茶の水女子大に対しては寄付10億円で、同大同窓会からの寄付と合わせた計約13億円で「国際交流留学生プラザ」の建設計画が進んでいる。東京芸大への10億円でも同様の構想が動いている。

 滝会長は東工大での会見で複数の大学支援に触れ、「観光大国を目指す日本において、留学生を徹底的に大事にする渦を作りたい」と述べた。

 滝会長は若いころの米国視察で起業のヒントを得ている。05年の同社の上場時から「日本に来た留学生を徹底的に大事にすべきだ」と口にしてきた。世界を股にかける隈研吾氏との出会いや、手がけてきたアート作品支援と融合させながら、国立3大学を支援する。

<キーワード=企業の創業者>


Q 企業の創業者による大学への寄付が注目される理由は。
A 創業時から保有する株式で、多額の上場利益が得られて寄付に使われることが多い。数十億円となれば立派な建物が建てられる。国立大学では運営費交付金とは別に「施設整備補助金」が付くが、政府の財政難で十分ではないため、大歓迎される。

Q 建物の名称に名前が付くのは。
A 破格の金額の寄付だから、大学は名を冠に置いて謝意を示すことが多い。個人寄付といっても創業者夫婦が協力して築いた財産であり、両者の合意で実現する。夫妻の名前が並べられるのはそのためだ。

Q 寄付する先は母校が主力か。
A ぐるなびの滝会長は母校・東工大の卒業生組織「蔵前工業会」の理事長を務めたし、同会の「蔵前ベンチャー賞」で第1回大賞受賞という背景がある。最近は大学発ベンチャーの大型成功例が目立つため、ここからの寄付の期待が膨らむ。しかし特定テーマで大学の社会貢献をアピールし、創業者の心に響けば、母校以外にもチャンスはある。
日刊工業新聞2018年3月1日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
 国立大学は運営費交付金減の中で、寄付活動を活発に手がけるようになっており、文部科学省もこれを後押しする。中でも創業者寄付は金額が大きく魅力的だ。しかしめったにあるものではなく、これに対する過度の期待は控えなくてはいけない。一方で、卒業生個人から、広く浅く寄付を集め、数十年にわたって応援してもらうという組み構築も大切だ。これは大学の知的財産(特許)での収入とも共通する心の持ちようだ。「コツコツと誠実に。そして時には、ラッキーがあるかも」。そんな気持ちで活動に取り組むのが正解なのだろう。

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