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自動運転は悪天候にどこまで耐えうるか

雪道実証進む、システムメーカーが開発主導
自動運転は悪天候にどこまで耐えうるか

三菱電機は悪天候でも安全な自動走行を完成車メーカーに提案する

 自動運転技術の研究が進んでいる。大手自動車メーカーなどが巨額の費用を投じて研究開発しており、人による運転が不要な完全自動走行車が2020年代にも登場する見通しだ。自動運転を実現するには、悪天候でも正しく道路状況や歩行者などを認知、判断し、的確な操作が求められる。折しも国内では北陸、北日本を中心に大雪が襲い、交通網が大混乱を来した。自動運転の普及には雪や大雨、台風と多様な気象条件への対応が欠かせない。

「みちびき」で空から制御、雪の高速も対応


 北海道旭川市内を通る道央自動車道。2月7日の雪がちらつく悪天候下でドライバーが自動運転モードをオンにすると、三菱電機の実験車両「xAUTO(エックスオート)」は自動走行を始めた。

 積雪の影響で自動走行の“道しるべ”である道路の白線が全く見えない場所や、途切れている箇所がいくつもあったにもかかわらず、カーブや道幅が狭い場所でもスムーズに走行。ゴール地点であるパーキングエリアの入り口まで無事にたどり着くことができた。

 三菱電機は準天頂衛星「みちびき」を使って雪道の高速道路で安全に自動走行する技術を初めて実証した。雪の影響で車載カメラが白線をとらえきれなくても、衛星が車側に送る高精度な測位信号と3次元(3D)地図情報で自動走行できることを確認した。

 「雪道や濃霧など悪天候の時こそ、運転操作ミスの出ない自動運転が生きてくる」。山川智也自動車機器開発センター長は走行実験の結果に手応えを感じている。

 みちびきは三菱電機が手がけた日本独自の測位衛星で今春から本格的な運用がスタートする。米国の全地球測位システム(GPS)をはじめとする測位衛星信号の補正に必要な情報を、日本上空から安定的に送信する役割を担う。

 みちびきを使うことでGPSのみでは現在数メートルほどある測位情報の誤差を、最大で数センチメートル単位にまで小さくできる。自動運転車はもちろん、鉄道や農業など幅広い分野で活用が期待されている。

 エックスオートはこのみちびきからの信号を受信する自社製の専用端末を搭載しており、自車位置を高精度に割り出せる。この自車位置情報と自動運転用の3D地図情報を組み合わせて、車が走行すべきルートを自動で算出する。

 悪条件下で車載カメラが白線や前方車両を認識できない状況でも、道路の中央を維持しながらスムーズに走行できるのはこのためだ。

 三菱電機はカメラやセンサーで白線や車の周辺情報を活用する「自律型」とみちびきを利用した「インフラ型」の走行技術をうまく併用することで、「冗長性のある安全性の高い自動運転システムを構築できる」(山川センター長)と見る。

 同社ではインフラ型に欠かせない衛星による測位技術や専用端末、地図作製技術をそろえる強みを武器に、2020年以降の実用化を目指す。

 日本のほか欧米などでの走行実験を行いながら、専用端末の小型化や、位置情報・ルート算出の高速化、高精度化を追求する。

日立、“見えなくても”走る、


 悪天候を想定した自動運転技術については競合の日立オートモティブシステムズ(日立AMS)も積極的に開発を進めている。

 16年9月には自動運転中にカメラが走行レーンを認識できなくなっても、自車位置を推定して自動走行する業界初の技術を発表した。

 自動走行中にステレオカメラと四つの車載カメラがとらえた車周辺の画像情報を絶えず蓄積しておき、車線が途切れた場合には直前の蓄積情報とGPSの情報を活用して自車位置を推定することで安全な自動走行を維持する仕組み。20年以降の実用化を目指している。

 足元では日立AMSの欧州子会社が中心となりステレオカメラを使って、ガードレールや雪壁を白線の代わりに道路境界として認識する路端検知技術を使った自動運転システムの先行開発を始めた。

 雪道や濃霧といった白線が見えづらい道路のほか、道路工事などで臨時に縁石やポールが設置され、道路の状況が変化している場合の自動走行にも役立つとみて、欧州で実車走行による実証実験を重ねている。

 自動運転車の開発をめぐっては、独フォルクスワーゲンやトヨタ自動車をはじめ国内外の大手自動車メーカーによる研究が加速。レベルによっては実用化に踏み出す動きが広がっている。
                   

完成車メーカーの最新動向


 独アウディは新型セダン「A8」に、車が主体で運転する「レベル3」の自動運転機能を18年以降に導入する。市販モデルにレベル3の技術を実装するのは世界初という。中央分離帯のある高速道路で時速60キロメートル以下で走行する際、センターコンソールのボタンを押すと運転操作をドライバーから車に引き継げる。

 日産自動車は高速道路の単一車線での自動運転機能「プロパイロット」を、ミニバン「セレナ」や電気自動車(EV)「リーフ」に導入している。単眼カメラで先行車を測距して速度を自動制御する仕組みだ。

 将来の実現が期待される完全自動運転車だが、白線が見えない道路状況に対応するためには認知、判断、制御に関する高度な技術が必要となる。

 特に雪道は雪が積もったふかふかの部分だけでなく、凍結した状況も想定される。人間でも運転に苦労する状況の中、いかに道路状況を認知し制御するかといった雪ならではの難しさが存在する。
                   

(文=下氏香菜子、土井俊)
日刊工業新聞2018年2月15日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
自動車メーカーでは現状、雪を含めたさまざまな環境を想定して認知、判断などの研究に取り組んでいるものの、まずは通常の道路状況にある一般道などでの実用化に向けて力を注いでいる。 (日刊工業新聞第一産業部・下氏香菜子)

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