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10年先の理想を追求したキヤノンのデジカメ新工場、自動化率どこまで?

「今は7割程度がコストなどのバランスがいい」、AIで賢く
10年先の理想を追求したキヤノンのデジカメ新工場、自動化率どこまで?

マザー工場である大分キヤノンのテクノ棟

 キヤノンは、2019年8月に宮崎県高鍋町に、レンズ交換式カメラを一貫生産する工場を稼働する。国内のカメラ新工場は、08年の長崎キヤノン(長崎県波佐見町)以来。カメラ事業を担当する戸倉剛執行役員は、「5―10年先の理想の工場をつくる」と意気込む。既存工場は稼働しながら順次生産改善を行うが、「新工場はドラスチックに変えられる」。

 理想の生産ラインとは、不良だけでなく、立ち上げ時間やコスト、人など全てで、極力ムダやロスの出ないもの。なおかつ、効率的に実現する。

 そのための手段の一つが自動化だ。戸倉執行役員は、「自動化が最も進んでいる機種の自動化率は7割程度。完全自動は一つの理想の姿だが、今は7割程度がコストなどのバランスがいい」と話す。他の機種でも設計段階から自動化しやすくつくり込み、投資効果を見ながら、自動化率を高める。

 生産ラインに設置したセンサーから膨大な情報を集め、人工知能(AI)で分析して、自動機をより賢くする研究も進めている。

 同社の自動化は、設計部門との連携に加え、自前の自動化設備が支えている。購入設備はさまざまな業種に対応するため、多くの機能を備えるが、使わない機能もある。

 内製すれば、必要な機能だけを搭載した設備を低コストで使える。「設備内製と自動化はセットだ。もっと広げたい」(戸倉執行役員)という。

 宮崎県を含む九州3県のカメラ工場は、一体運営を加速させる。マザー工場である大分キヤノン(大分県国東市)は、テクノ棟の完成を機に、さらに生産技術や自動化技術開発といった上流の業務を拡大する。

 AIを利用した生産技術の開発も大分の仕事だ。長崎キヤノンは、これまでコンパクトカメラの生産が主力だったが、市場の縮小を受けて、カメラ以外も含め少量多品種生産が可能な総合生産拠点とする。

 一方、海外工場では、こなれた生産技術を使い、人の手作業と組み合わせてコスト削減を図っている。宮崎新工場が稼働すれば、国内生産比率は現在の6割から7割へ高まるが、「さらに大幅に上げる予定はない」(同)。エントリーモデルなどは海外で生産することが多く、生産変動を吸収する役割もある。

 17年のカメラ市場は、16年の熊本地震でソニーのイメージセンサー工場が被災した影響から回復途上だったため、今後、これまでの縮小傾向がどうなるかの予想は難しい。コンパクトの縮小傾向や高価格帯製品の伸長は続くとみられ、「キヤノンとしては(市場全体で)17年以上のシェアをとりたい」(同)と意気込む。

 キヤノンは、コンパクトカメラ、一眼レフカメラ、ミラーレスカメラの全てをそろえ、各市場の求める製品を供給している。カメラ市場が縮小する中、競合メーカーは機種の絞り込みを進めている。フルラインアップ戦略を続けるには強い生産基盤が必要だ。九州3県を中心に、キヤノンの理想の追求が続いている。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2018年2月14日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
キヤノンは14日、シーメンス(東京都品川区)と工場の自動化(FA)の支援で協業を始めると発表。キヤノンの映像関連技術と、シーメンスが持つ生産現場のデジタル化・自動化技術を組み合わせて、FAシステムソリューションを順次発売するという。 第1弾として、シーメンスの産業用コンピューターに、キヤノンの異常監視・録画ソフトウエア「モニタリングエディション」と画像処理用ソフトウエア「ビジョンエディション」を搭載し、生産設備に組み込めるソリューションとして提供する。自社工場のノウハウをどこまで外だしするのだろうか。

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