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そして誰もいなくなった探査レース。厳しい現実の先に見えた月明かり

資金調達の大きな壁も、多くのビジネスモデルが生まる
そして誰もいなくなった探査レース。厳しい現実の先に見えた月明かり

HAKUTOの月面探査車(左)のデモ走行(HAKUTO提供)

 最大の難関は資金調達―。月面探査レース「グーグル・ルナ・エクスプライズ」は、誰も月面にたどり着かないままレースを終えた。米Xプライズ財団が主催し、米グーグルがスポンサーのこの国際レースでは日本からispace(アイスペース、東京都港区)のチーム「HAKUTO」(ハクト)が参戦していた。同社はレースを機に101億円を調達し、民間月面探査の事業化を進める。レースの先に見据えていた事業開発を加速する。

 レースにはもともと二つの難題があった。宇宙探査を実現する技術開発と、宇宙開発をビジネスとして成立させるための事業開発だ。

 アイスペースの袴田武史最高経営責任者(CEO)は、「月着陸と探査の技術は十分な資金と時間さえあれば、十分達成できる難易度」と説明する。

 参加チームを苦しめたのは事業開発だった。月面探査やその技術の市場性を示し、資金を調達しないと開発もままならない。この条件をのんで26チームがレースに参加したが、最終組まで残れたのはたった5チームだ。

 袴田CEOは、「最初の数年はどのチームも資金が集まらなかった。各チームが資金調達に成功し、本格的な活動ができるようになったのはこの3―4年。資金面で活動が立ち上がるタイミングが遅かった」と振り返る。

 Xプライズ財団は活動から10年でレースを終了し、みなゴールはかなわなかった。

 ただ最終組に残った5チームは民間宇宙開発の事業化を進める。アイスペースは、2017年12月に日本政策投資銀行などから101億5000万円を調達し、月面周回と月面着陸の資金を確保した。

 19―20年にかけて技術を確立し、月面を探査する。これ以降に月面の縦孔を調査するなど、資源探査を事業として成立させる。

 例えば最初に縦孔の内部を調査できれば、そのデータは大きな価値を持つ。縦孔の構造や表面性状がわかれば、次は対応したロボットを送って作業ができる。

 縦孔は地下空洞があり、月面基地の候補に挙げられている。開発競争が激しくなるほど、高精細の衛星画像のように情報が高く売れる可能性がある。

 この調査にむけてアイスペースは、1000台規模の調査ロボットを分散協調する制御技術を開発するほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や東北大学と昆虫型ロボットの開発を進める。

 今回は誰もゴールはかなわなかったが、レースを機に宇宙開発ベンチャーがいくつも生まれ、資金調達環境も整った。「多くのビジネスモデルが生まれてきた。我々は月面の資源開発をビジネスにする」(袴田CEO)。事業開発のレースはここからが本番だ。
「我々は月面の資源開発をビジネスにする」(袴田CEO)

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年1月26日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 レース全体の敗因は資金調達ですが、「HAKUTO」の敗因は相乗り契約先のインダスが期限までに打ち上げられなかったことです。打ち上げ費用は重量1kgあたり120万ドル以上と推定されます。インダスに先払いしている一部費用は戻ってこないそうです。あといくら積んだらインダスは打ち上げられたのか知りたいところです。ただ、クラウドファンディングなどで集めたサポーターの想いは、諦めずに月面に届けるとのこと。調達した資金で開発を進めれば、ispaceは自力で月面までたどり着けるようになります。少し先になりますが、サポーターは月に届くと信じて見守ることになります。日本は普通の市民が夢や科学技術を支えられる国なんだと思う次第です。

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