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AI時代、人の本質である”遊び”から新たなビジネスが生まれる

人間らしさとは「遊び、楽しみ、創造する」こと
AI時代、人の本質である”遊び”から新たなビジネスが生まれる

人々の生活や仕事ではAIの存在が当たり前になってくる

 「チェスは知恵の試金石」(ゲーテ)、「チェスは精神の訓練場」(パスカル)―。歴史上の偉人が言ったように、昔からゲームは知性の象徴だった。単なる娯楽ではなく、人生を豊かにする触媒ともとらえていたのだろう。

 昨年は人工知能(AI)と人間の知性の対決が幕を閉じた年だった。チェスやオセロに続き、将棋や囲碁の世界でも名人や世界最強棋士が相次いで敗れた。人間を倒した米グーグル系「アルファ碁」の開発者は「人との対局はこれを最後とする」と宣言した。

 その後、同社はプロ棋士の棋譜を学ばずに自己対局だけで学習していく「アルファ碁ゼロ」を発表。人の棋譜を学びながら強くなる従来型AIに100戦全勝し、「ゲームAI」の研究は新時代に突入した。

 ルールが明確で勝敗のあるゲームは、AIの能力を測る重要な指標になる。だが欧米や中国がゲームAIの研究に巨費を投じる一方で、日本は依然として「サブカルチャー」「イロモノ」などと学術的な地位が低い。

 AIに対して人間らしさとは「遊び、楽しみ、創造する」ことだろう。ゲームの本質を見抜き、単なる娯楽ととらえるなかれ。これまでと同様、未来のビジネスは遊びの中から生まれるに違いない。

日刊工業新聞2018年1月23日



あらゆる業種、最前線にヒント


 人工知能(AI)への関心が高まり、AIは人間の仕事を奪うのか、と不安を抱いている人も多い。

 歴史を振り返れば人類は次々と新たなテクノロジーを生み出すことで、生活を飛躍的に向上させてきた。例えば、1440年の印刷機の発明で本の大量生産が可能になると、製本や輸送、マーケティングや販売などの仕事が発達した。

 その後、印刷所が増え印刷コストの低下が新聞の創刊につながった。印刷機の登場により写本筆記者という職業はなくなったが、その代わりに新たな仕事が生まれていった。テクノロジーによって奪われる職業があると同時に、予期せぬ形で新たな仕事が生まれるのもまた世の常である。

 ATMの普及期にあたる1980−2010年において、米国の銀行員数と銀行の支店数は予想に反して増加している。これは、情報技術の進化により多くの新しい金融商品が生まれたことで、営業担当、管理担当、お客様担当のスタッフや、技術サポートといった新たな職種が必要になったからである。

 こうした新たな仕事の登場は、消失した職業を補って余りある。

 オートメーションはすでに、人間の労働を補完する機能を果たしている。米国、ドイツ、韓国では、ロボットの活用と人間の雇用が同時に増加している。また、オートメーションやマシンのインテリジェンスによる生産性の向上は、労働者に直接的なメリットをもたらしうる。

 米国のある企業では、製造の反復作業にロボットを導入して生産性が20%向上した結果、より多くの従業員を雇用できるようになった。

 さらに、ロボットには製作からプログラミング、保守、修理、監視までが必要になるため、新たな種類の技術職と管理職が生まれる。

 世界経済フォーラムは今後、専門性の高い営業担当者のニーズが急速に高まると予測しているが、これはテクノロジーがあらゆる産業に深く浸透するため、異業種に自社のプラットフォームの利点を説明できる営業担当者が必要になるからと述べている。

 AIの進化は止められない。各社が独自に磨いてきた人間に依存する作業を再定義することが、AIと上手に付き合うカギである。あらゆる業種の最前線にAI活用のヒントがある。
(文=上野延城<日本経営士会>)

日刊工業新聞2017年12月28日


政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
歴史学者のホイジンガは「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)を唱え、遊びこそが人間の本質だと定義した。仕事で余裕がなくなってくると、ついつい仕事に関わること以外は無駄に思えて近視眼的なことに目が向いてしまう。しかし広い視野を持って色々な情報や体験をインプットしないと、良い仕事はできないと実感する。学びつつ遊び心も持って創造性を高めることが、AI時代ではより重要になってきそうだ。

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