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トランプ“混乱の1年” 識者に聞く5段階評価

トランプ“混乱の1年” 識者に聞く5段階評価

トランプ大統領公式フェイスブックページより

 トランプ米大統領が就任して21日(米現地時間20日)で1年を迎える。好調な米国経済だが、環太平洋連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉といった保護主義的施策は世界経済に波紋を広げてきた。昨年末ようやく成立した税制改革法案の経済効果を期待する声があるが、財政負担の増大への懸念もある。安全保障面では北朝鮮、イランとの対立激化など緊張が高まる一方だ。混乱の1年を識者はどう見ているのか。「5段階」で評価してもらった。

総合評価「3」税制改革以外、前進せず


【ニッセイ基礎研究所主任研究員・窪谷浩氏】

 「経済」は5段階評価で3程度と評価するが、税制改革法が成立していなければ1か2だった。「外交」に関しては米国の世界における地位を低下させ、地政学的リスクを一層不安定にさせたため2程度。これらを合わせた総合評価は3程度だろう。

 経済面では税制改革を除き、公約がほとんど前進していない。TPP離脱は表明したが、NAFTA再交渉は頓挫し、対中国の通商政策も進まなかった。

 11月の中間選挙は有権者にアピールしやすいインフラ投資の行方が焦点の一つ。通商面ではNAFTAや米韓自由貿易協定(FTA)交渉などが優先され、日米FTAは交渉入りの可能性は否定しないが優先順位は低いだろう。

総合評価「3」米の存在感低下した1年


【みずほ総合研究所欧米調査部長・安井明彦氏】

 経済政策のスタートは遅かったが税制改革を年末にまとめて帳尻を合わせた。ただ減税もGDP(国内総生産)比の規模は大きくない。設備投資の高まりが技術革新など企業の成長力につながればベターだろう。外交は米国の存在感、信頼感が低下した1年だった。中東、北朝鮮などでの不規則発言は状況を流動的にし、世界経済のリスクが増した。

 去年は言っているだけで政策にならなかったものが、今年はいよいよ動きだす。特に懸念されるのは保護主義的な通商政策だ。対中国の貿易制裁やNAFTAの再交渉などが動く1―3月が試金石となる。経済政策は4点、外交は2点、総合3点で、及第点と言ったところだ。

総合評価「2・5」経済政策、ほぼ何もできず


【日本総合研究所理事・山田久氏】

 通商問題を含む「外交」は5段階評価で2、「経済」は3程度ではないか。これらを合わせた総合評価は5段階の真ん中である2・5とみている。つまり、経済政策面ではプラス、マイナスいずれの効果も確認できないほど、ほとんど何もできていないということ。米議会が強く、結果的に“破壊的”なことは起きずに実体経済はあまり動いていない。

 経済は税制改革を評価して3をつけたが、これも今秋に中間選挙を控えているから成立できたといえる。外交ではイスラエルの米大使館移転問題やNAFTA見直しなど国際社会をかく乱しているが、NAFTAは当初より強硬でなく、北朝鮮問題も現実的な対応だと思う。

総合評価「2」自由貿易を“ちゃぶ台返し”


【第一生命経済研究所首席エコノミスト・嶌峰義清氏】

 通商問題を含む「外交」は、米国の孤立を深める方向に向かわせたため、5段階で2の評価。TPPやNAFTAの枠組みを壊す“ちゃぶ台返し”を行い、自由貿易体制の先行きを不安定なものにした。

 一方、「経済」は大型法人減税をはじめとする税制改革法が成立し、短期的に景気にプラスであるため4くらいと評価する。ただ総合評価となると、米国内の世論を二分し、人種問題で物議を醸していることもあって2程度だろう。

 米国経済は堅調だ。日米FTA締結に向けて日本に圧力を強める環境になく、今後も北朝鮮や中東情勢が緊迫化すれば通商問題は後回しになる。

総合評価「2」公約自体が支離滅裂


【三井物産戦略研究所国際情報部北米・中南米室長の山田良平氏】

 公約を守ろうとする姿勢はあるが、公約自体が支離滅裂で評価も難しい。パリ協定やTPPから離脱したが、2国間FTAなど、代替案には成果がない。法人減税を通したが、現実的政策にまとめあげたのは議会の手柄で、大統領の功績は30%程度。本来時間をかけて審議するべき税制を実質3カ月で片付けてしまった感も否めない。

 NAFTA再交渉で離脱をちらつかせるが、経済的にも交渉術的にも意味がない。関税が戻って損をするのは米国。それは周りも理解している。総評は2点。公約を守ることは悪いことではないが、その中身も踏み込んだ検討ができていない点もマイナスだ。
日刊工業新聞2018年1月17日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
 トランプ大統領の政権運営に点数を付けるとしたら―。こう問われた経団連の榊原定征会長は「大きなプラス面の一方でマイナス面もある」と話す。プラス面は2017年末に成立した税制改革法案や今後のインフラ投資、規制改革の推進をはじめとする「産業育成的な政策」(榊原会長)への期待だ。とりわけ大幅な法人減税で投資や生産が活発化。「米国が世界経済をけん引する形につながっていく」(同)と展望する。  米国でのビジネス経験が豊富な茂木友三郎キッコーマン名誉会長は、やや慎重な見方だ。今回の大型減税が景気刺激策としての期待がある一方で、「トランプ大統領の熱狂的な支持層にどう作用するかは不透明」と語る。「ことに与党(共和党)が今後、どんなスタンスで(政策運営に)臨むのか、もう少し見てみないと分からない」とし、18年秋の中間選挙までは注視が必要との見方を示す。  一方で経済界として看過できないマイナス面は通商政策だ。トランプ大統領が就任早々離脱を表明したTPPについて榊原会長は「米国の経済界や政界には(TPPへの参加が)国益につながるという考えを持っている人もたくさんいる」と語る。日本は当面は米国を除く11カ国によるTPP11を推進しつつ、なお米国の協定復帰に望みをつなぐ。  経済同友会の小林喜光代表幹事も「自国優先主義的な動きに対峙(たいじ)する」ため、日本政府には経済連携を強力に推進するよう求める。日本はいま「グローバル市場における自由貿易・投資の盟主としての地歩を固める時だ」(小林代表幹事)という。

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