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電子部品メーカー、熱を上げるセンサーでどうビジネスするの?

ソリューションに適したモジュールの需要が高まる
電子部品メーカー、熱を上げるセンサーでどうビジネスするの?

TDKは高性能の慣性センサーを提案し、VR・ARゲームの市場を開拓

 電子部品メーカー各社が、センサーを中心としたソリューションビジネスを本格化している。近年、ヘルスケアや仮想現実(VR)、スポーツなど新たな市場でセンサーの需要が増している。ただ新分野であるため、顧客側から具体的なニーズが出にくい状況にある。そこで各社は荷重や方位を検知できる特徴的なセンサーを組み合わせてソリューションを展開。協業先も増やし、課題解決に向けた用途を相次いで提案している。

生体情報を検知、介護市場を開拓


 ミネベアミツミは荷重センサーを中心に介護市場を開拓している。生体情報を検知するベッドセンサーシステムを構築し、2018年度から国内の介護施設向けに本格的に展開する。

 このセンサーに可能性を感じたリコーもビジネスへの参加を決めた。将来は医療や育児業界に対象を広げる考え。さらに他のセンサーも組み合わせることで、心拍情報や位置情報などを含めた統合型の情報サービス基盤へと昇華させる。

 足元で力を入れているのは、荷重センサーの性能向上。すでに従来製品比で5倍の感度を持つ高感度センサー「ミネージュ」を開発した。わずかな荷重や加圧を検知でき、細かな制御につながる。小型化・高感度化ができれば、従来のセンサーを代替できると期待が大きい。例えば、ロボットが豆腐を持ち上げることも可能になる。

 ミネベアミツミの加々美道也取締役常務執行役員は「競合は単品の荷重センサーではなく、半導体市場だろう」と語る。半導体製造技術を応用した微小電気機械システム(MEMS)センサーの検出領域まで進化させ、数年後までに数百億円超の売り上げを見込む。貝沼由久会長兼社長は「数百億円は控えめな目標。いずれ数千億円のビジネスになる」と力を込める。

 村田製作所も仮想センサーを中心とするプラットフォーム(基盤)ビジネスに乗り出した。ITベンチャーのウフル(東京都港区)と連携し、仮想センサー基盤「NAONA(ナオナ)」を構築。センサーから取得した音声データを基に、曖昧だった場の盛り上がりや雰囲気を判定する。温湿度センサーなどを追加すれば分析対象を拡大できるという。最終的には無線通信モジュールなど既存の部品事業とのシナジーを狙う。
ミネベアミツミなどが構築した生体情報を検知するベッドセンサーシステム

慣性センサーでAR・VRゲームに


 センサーを基点にしたデータビジネスが活発化する中、センサー同士や他の電子部品と組み合わせたソリューションも期待されている。特に加速度や角速度を検知し、物の動きや動きの速度を捉える「慣性センサー」の注目度が高い。

 TDKの慣性センサーは業界最高峰の精度が強みだ。例えば、VRゴーグルを装着してゲーム内で体を360度回転させた場合と、現実世界で360度回転させた場合では、位置のズレがほとんど発生しないという。このズレの軽減が、VR利用時に体調が優れなくなる“VR酔い”を防ぐことにつながる。

 VRや拡張現実(AR)を使ったゲーム市場では必須のセンサーだ。慣性センサーの性能向上は、新しいゲームソフトやアプリケーション(応用ソフト)の創出につながりそうだ。

 アルプス電気はスポーツ分野で慣性センサーなどを使ったソリューションを提案する。例えば、緻密な計測は難しいとされた野球の投球などに対し、新しい測定方法を編み出した。センサーモジュールを野球ボール内に搭載することで、投げたボールの球種や球速、回転数などを算出。感覚でしか確認できなかったボールのキレや伸びといった変化を定量的に計測できる。

 こうした技術は、同社の慣性センサーや磁気センサーを組み合わせた9軸センサーが要となっている。木本隆専務は「実際に使われるシーンを細部まで想像し、ソリューションにしている」と語る。トレーニングなどでの利用を想定し、顧客の要望を取り込んでパッケージ化する計画だ。

 また、9軸センサーは人の動きを検知する分野にも用いられる。建物内で位置情報を検出できるため「インドアナビゲーション(インドアナビ)」で応用される。インドアナビは方位に、上下方向を加えた「立体方位」で人の動きを捉える。すでにNTTドコモやヤフー、野村総合研究所(NRI)などは全地球測位システム(GPS)を取り入れたインドアナビのサービスを試行している。人の動きをより厳密に検知でき、ナビを使った広告を素早く提供するなど新サービスも展開しやすくなる。

 ただ課題も多いことから、TDKや旭化成エレクトロニクス、ロームなどは多様なセンサー素子を利用し実現を狙う。「建物内の磁性機器や磁場の影響を事前に把握し、その情報との抱き合わせのソリューションになるだろう」(寺田正人旭化成エレクトロニクスセンシングソリューション事業部長)と具体案を示す。センサーの機能を最大化させるため、ビーコンなど複数の機器と組み合わせる見通しだ。
センサーを用いた球種測定ソリューション(アルプス電気)

 電子情報技術産業協会(JEITA)によると、センサーの16年の世界出荷数量は15年比10%減の約244億9469万個、金額は同6%減の約1兆7468億円となった。調査を始めて以来、7年連続のプラス成長だったが、初めてマイナスに転じた。

 ただ、JEITAは「(センサーが)パッケージ化されたMEMSセンサーモジュールが伸びている」と説明する。センサー単体ではなく、ソリューションに適したモジュールの需要が高まるのは間違いない。
            

(文=渡辺光太)
日刊工業新聞2018年1月10日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
センサーのビジネスは、各社が主力とする受動部品のビジネスとは異なる側面を持つ。受動部品では受注を待つモデルが主流だったが、センサーでは積極的に提案することでビジネスの主導権を握ることができる。また高付加価値のセンサーや、センサーモジュールを提案することで収益の拡大にもつながる。センサーを足がかりに新市場を生み出すことができるか。各社のユニークな発想に期待が集まる。 (日刊工業新聞第一産業部・渡辺光太)

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