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使いたい人すべてに届けたい!義手コミュニティーを広げるNPO

Mission ARM Japan・近藤玄大理事インタビュー
使いたい人すべてに届けたい!義手コミュニティーを広げるNPO

Mission ARM Japan公式ページより

 義手をもっと気軽な選択肢に―。そんな義手の開発に取り組む近藤玄大さんは、特定非営利活動法人(NPO)のMission ARM Japanで、上肢障がい者と義手開発者をつなげるコミュニティづくりを進めている。ソニーの研究者を経て、義手を開発するexiiiを社外の仲間とともに3人で設立。そして現在はexiiiから退き、NPOに活動の舞台を移している。ヒトをサポートするロボットの一つの形である義手。その普及に向けて近藤さんは何を考え、どのようなことをしようとしているのか聞いた。

義手研究は科学的な探究心から


 ―義手の研究開発を始めたきっかけは何ですか。
 「学生の頃は人工知能みたいなことがやりたかったんです。しかしゲームやアプリなど画面の中で閉じたものではなく、実際に動くモノが面白いと思った。大学生になる頃はちょうど脳科学がブームだったんですが、そこで脳と体が組み合わさるとどのような表現ができるのかという、体の複雑さも研究したくて。義手をやるとそのようなことが理解できるのではという科学的な探究心からです」
 
 ―学生時代には米国に留学されましたが、そこではどのような研究を。
 「修士課程の間に留学したのですが、その時はブレーンマシーンインターフェースという、より侵襲的な研究に携わりました。たとえばサルの脳の中の電極からデータを取り、脳から直接ロボットを動かすことができるのかなどという研究です。ただ修士修了したものの、このまま研究を続けても5年や10年では大きな成果が期待できないと感じました。ある意味、研究者としては挫折したわけです。その一方で、義手の問題では現実に人が苦しんでおり、技術的なもの以外にもいろいろ課題がありました。例えばコストやデザイン。そこのバランスをどう取らなければならないかを考えるには企業に入らなければと、ソニーには2011年から2014年の途中までお世話になりました。そして2014年に仲間とベンチャー企業を立ち上げました」

開発環境変えたネットと3Dプリンター


  ―exiiiでは電動義手のプロトタイプを数万円で完成させました。
 「義手を取り巻く環境では変化しています。技術的にはインターネットと3Dプリンターによって、コストの問題が解決に向かっています。ちょうどインターネットの登場でメディアの世界が大きく変わったようにです。exiiiでは義手の設計データをオープンソースで公開しました。そうすれば3Dプリンターによって輸送コストもなくモノをグローバルに広められる。もちろん課題もあります。製造物責任法や薬機法などではかなりグレーなゾーンとなりかねない。オープンソースでばらまいたデータで作った製品はどうメンテナンスするのか、使う人をどう守るのかという課題が残されています。そのことを踏まえた新しいルールが必要だろし、どのような倫理観で臨むべきかも考えないといけない」
exiiiで開発した義手「HACKberry」の設計データはオープンソースに


 ―義手を受け止める社会の変化はありますか。
 「デザインの多様性を受け入れるようになったきたように思います。もはや大量生産、大量消費ではなく、ニッチな商品の方が売れる。機能面だけではなく、趣味の領域と言えるようなところで差別化する時代になっています。そして、そのような市場に対応できる試作が3Dプリンターなどで可能となっています」
靴を履き替えるのと同じ感覚

 ―どのような義手開発を目指しているのですか。
 「二つのアプローチがあります。一つは人間そっくりの機能を実現しようというもので、米国やオーストリアでは研究が進んでいる。腕に伸びている神経を胸に付けかえることで広い表面積を確保し、そこにセンサーを置いて筋肉の信号を拾うもので、臨床研究も進んでいます。ただそれだけでは高コスト。そのため現時点では傷痍軍人の治療などに限られてしまっている。そのため僕は違うアプローチを取っている。もっと気軽に一般の当事者の方に幅広くに義手を広げたい。安く届けるだけでなく、用途に応じて使い分けても良いと思う。スポーツをする時の義手、楽器を演奏するための義手など機能を絞ってしまえばコストも下げられる。靴を履き替えるのと同じ感覚だ」

 ―開発の場はNPOに移しました。
 「とにかくやりたいことは山ほどあるが、一人ではできない。まずは中長期的に場を作ることに集中しているのはそのためです。もともとシステムが僕の研究テーマ。大学ではシステム創成学科を出ており、あらゆるシステム体系が対象。ロボットもその一つだし、人間の免疫システムや、まちづくり、金融市場の仕組みなどあらゆるものが含まれる。プロダクトそのものではなく、それが社会でどのように回っていくのかということに興味がある。義手に例えると、まずどのようにしたら人間が障がいから主体的に立ち上がることができるかに関心が行き、義手を普及させるためにオープンソースの取り組みを始めた。そしてもっと多様な可能性をどう実現させていけばいいかを考える中で、コミュニティの形成にたどり着いた。ロボットを作りたい人はたくさんいるし、日本には僕なんかよりも優秀な人は多い。それらをつなぎ、さまざまな才能が化学反応を起こすことができるような取り組みをしたい。名刺の肩書きにカタリスト(触媒)と書いてあるのもそいういうことです」

科学教育の教材にも


 ―NPOではどのような取り組みを。
 「現在はグーグルからの助成金などで運営しているが、それだけでは続かない。そこで、教育、研究、制作を軸に活動を広げていきたい。義手は科学教育の教材としても有望です。世界中で科学教育のニーズは高まっており、ドバイに招かれワークショップを開いたこともある。NPOではさまざまな義手を試作していますが、このノウハウを生かせば、ロボットのイロハを学ぶことができます。障がい者の方を交えればダイバーシティ教育にも生かせる。研究では、義手だけでなく、障がい者をサポートする製品開発を進めている企業や大学に、アドバイスや、被験者のマッチングなどで協力できる。プロトタイプの開発を通じて情報を発信し、障がい者の方が直面している状況の理解も進めたい」

 「NPOはもともと肩の骨肉腫などで腕を失ったがん患者の集まりでした。最初は義手の開発者として交流していたのですが、2017年からは理事として加わることにしました。当事者の心のケアだけでなく、技術者も集って義手などを開発するコミュニティとして活動している。毎週水曜日の夜に開発者が集うミーティングを開催しており、どんどん参加者は広がっている。高校生も参加しているし、こないだは親子連れで小学生も参加した。彼らのモチベーションは高いし、大人のように、『それは無理なんじゃない』なんていうブレーキをかけたりすることもない」
NPOでは昭和のにおいがする“町”を目指している。


目指すのは昭和の“町”


 ―NPOを中心にコミュニティが広がっていますね。
 「僕はまちづくりだと言っている。近所付き合いがあり、大人も子どもも自然に交流するような昭和のにおいがする“町”を目指している。もともと参加者がNPOに足を踏み入れたきっかけは、患者であったり、開発者であったりという立場からですがが、交流してしまえば一人一人の人間。障がい者や開発者と言っても、人としてそれぞれの性格や表情があるわけで、お互いの関係も状況によって変わってくる。もともとは義手など当事者に役立つモノを作り上げるコミュニティにしようと考えてスタートしたが、むしろ“町”そのものに価値があるのではと思いだしている。だから最近ではいろいろな地域が実際に取り組んでいるまちづくりの手法なども参考にしている。上肢障害という目立たない分野を盛りあげていくため、とにかく“町”を広げていこうと思っている。当事者だけでなく、開発者だって孤独に悩んでいたりもするのだから」

 ―義手の普及に向けた目標は。
 「世界中の義手を使いたいという、すべての人に届けられるようにしたい。当面の目標は10年後に世界中で本人が望む形で義手をつけたり、つけなかったりできるようにすること。そのためのまちづくりを今は東京でやっている。この東京を一つのモデルとして、さまざまな地域に活動を広げていきたい。いずれは大阪や名古屋、そして海外にもできればいい。それぞれの地域では当然のことながらローカルルールもあるだろう。もう大量生産品を一方的に届けるというものではない。当事者の体は一人一人違うし、腕の形だって違う。ほしい義手だって人それぞれ。exiiiの義手では手首から先は切り離せるようにして、いろんな選択肢に応えられるようにしている。exiiiの3人でここまでできたのだから、町の力をうまく発揮させることができれば、もっと多くのことができるだろう」
Mission ARM Japan理事の近藤玄大さん

【略歴】
近藤玄大(こんどう・げんた)1986年大阪生まれ。2011年東京大学工学系研究科修士課程修了。2009~2010年にカルフォルニア大学バークレー校に留学。2011年ソニー入社、2014年にexiii株式会社を設立し、代表取締役に就任。一方で上肢障がい者の支援組織である、NPOのMission ARM Japanでも活動。2016年11月にexiiiを退職し、活動の軸足をNPOに移す。NPOの理事として活動を続けながら、2017年にはソニーにも復職している。
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
世界一厳しい消費者が日本のメーカーを育てたように、モノづくりの力は単に作り手だけが頑張れば良いのではない。それはロボットの開発でも同様だろう。生活の場に近づくほど、それを取り巻く社会の力が試される。義手のような生活そのものをサポートする製品ではなおさらだ。そのコミュニティ作りの手法がNPOというのは、今日的ではあるけれど。

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