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自分が自分であることが揺らぐ?無意識の情報も行動に影響

文=脳情報通信融合研究センター研究員 對馬淑亮
自分が自分であることが揺らぐ?無意識の情報も行動に影響

無意識でも脳は情報を処理、統合し、感覚や行動に反映させている(イメージ)

 自分が自分であることに疑いを持つ人はほとんどいない。しかし、自分の「意識」とは別に、脳が活動していることが、最新の脳科学でわかってきている。無意識でいる間も脳はさまざまな情報を処理、統合し、自分の感覚や行動に反映させているのである。

 脳情報通信融合研究センター(CiNet)では、無意識が支配する脳情報やそれを制御する技術について研究を進めている。

 そうした無意識の人の行動や脳の活動を研究していると、そもそも自分が自分であることに疑いを持たざるを得ない研究結果に出くわすことが多くある。

 我々が以前、米国で行った研究では、無意識の情報が自分たちの行動に少なからぬ影響を与えることを発見した。さらに、そうした無意識の情報が脳の可塑性にも大きな影響を与えることを明らかにした。

 また、NHK放送技術研究所で行った研究では、近年、発展著しい高解像度ディスプレー(4Kや8Kスーパーハイビジョンなど)の映像を見ていると、解像度の変化はわからなくても、立体感を高めることを発見し、そして、脳の特定の領域がそうした活動にかかわっていることを明らかにした。

 無意識なのに、自分に影響? 無意識なのに、脳は反応? どちらも、あずかり知らない情報や刺激に翻弄(ほんろう)される人間の姿である。無意識も含めた個人の在り方はどのようにあるべきか。単に哲学的な課題に留まらず、人間の日常生活のありようにもかかわる重要な問題として今後重要性が増してゆく。

 脳科学研究の成果を社会に還元することを目指すCiNetの研究開発は、基礎的段階から社会と接点を持って進めて行くことが重要である。この観点から、科学技術振興機構(JST)が関西の、けいはんな地区で進めているリサーチコンプレックス事業への参画は時宜にかなっている。

 そこではi−Brain(脳情報科学)とICTの技術を駆使し、ココロの豊かさを求めて、これまでにない「超快適(メタコンフォート)」スマート社会の構築を目指している。異なる分野の研究者や技術者が集まり、人のココロの問題に取り組んでいる。「無意識」の研究成果も生かす場所がありそうだ。

◇脳情報通信融合研究センター研究員 對馬淑亮(つしま・よしあき)
米ボストン大大学院修了、Ph.D。米ハーバード大、独レーゲンスブルク大、NHK放送技術研究所などを経て、15年より現職。予想できることはやらない、がモットー。認知心理学者。
日刊工業新聞2017年11月28日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
「自分が自分であることに疑いを持たざるを得ない研究結果に出くわす」というのは面白い現象です。科学と哲学、両方からの「自我」の見解が気になります。

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