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かげりゆく地方創生、一方で成功の芽も。カギは民活?

「地方創生は民間主導で動くべき時に来ている」
かげりゆく地方創生、一方で成功の芽も。カギは民活?

北海道長沼町の街全体を“縁日”にする「夕やけ市」

 3年前、華々しく登場した「地方創生」―。大金をかけたのに今や見る影もなく、期待はしぼみつつある状況だ。だが、そんな中でも、地方創生の核となる「仕事づくり」で、成功の芽も生まれつつある。そのキーワードは民活。成功事例を探ってみた。(石掛善久)

成功のカギは若者の力(北海道長沼町)


 北海道長沼町の「夕やけ市」は1996年に開始して以来年々拡大、今では人口1万人の町ながら年間4万人を呼び込んでいる。電気店がおでん屋をやるようなユニークな市だ。夕やけ市をきっかけに移住者の獲得・創業にも結びついた。この成功のキーワードは若者の力だった。

 市のきっかけは基幹産業である農業の低迷と消費不況、近隣市町村への顧客流出による商店街の存続危機だった。何とかしなければならないと長沼町若手商工会員が研究会を立ち上げ、各地のイベントを視察。北海道音更町の「夜更市」をヒントに市の開催を提案した。

 ご多分に漏れず長老らの抵抗勢力がいたが、これを何とか説得。実行委員会を組織し開催にこぎ着けた。時期は毎年5月から9月までの第4土曜日。この9月で110回を数えた。

 コンセプトは「いつもの街並みが縁日に!」。靴屋がクレープ屋を、美容室がそば・うどん・綿あめ屋を、家具屋がラーメンをと非日常的商店街を演出する。イベントは町全体を一つの会場として実施。公園や空き地で子供対象のミニゲームや大道芸、地域サークル活動、子供の郷土芸能発表が行われる。

 夕やけ市は成功しているが、それでも商店街、商工会、町としての課題は多い。大畠努長沼町商工会経営指導員は「なんと言っても人口減少問題に対処しなければならない」と話す。

 その一環として夕やけ市の際に空き店舗を活用したチャレンジショップ事業も3年前から行っている。空き店舗や空きスペースを活用し、事業の可能性を判断してもらおうという狙いで、一昨年には東日本大震災で被害を受けた栃木県那須町のカレー屋さんが移住、農家を借りて事業を開始し固定客もついている状態だという。「とりあえず、交流人口を拡大していきたい。札幌も近いのでバス会社と話してツアーが組めればいいなと思っている」という。

衰退した採石場を観光資源に(岡山県笠岡市)


 父親の危篤を機に里帰りした石材店の息子の情熱が、岡山県笠岡市の地域創生活動に希望を与えている。この4月に自社採石場を使った展望台が完成。国の資金も得て「北木島採石場見学ツアー及び北木石を使用した土産品の開発・販売事業」もスタート。自治体は小豆島との共同で日本遺産申請へ動いている。
石割り体験も行っている

 北木島はかつては日本最大の花こう岩の産地として繁栄、産出する石は「北木石」のブランドで高い人気を誇ったという。だが、中国などの安価な石に押されて、今や127あった業者は一時、鶴田石材1社(現在は2社)となった。人口も10分の1に減少、典型的な過疎の離島となった。

 東京で専門商社マンをしていた鶴田石材の鶴田康範社長は02年末、父親が心筋梗塞で倒れた際に故郷に戻った。親は苦労をかけたくないと反対したが、風光明媚(めいび)な故郷の景色にひかれ、さらに北木石の知見を積むにつれ「この島を何とかしたい」(鶴田社長)との思いがこみ上げたからだ。

 鶴田氏は4代目。120年以上産出してきた採石場(丁場)は底部に雨水がたまりエメラルドグリーンの丁場湖を形成している。来島者の要望もあり、約70メートル下の石の渓谷を一度に20人が見学できる展望台建設に着手。市の補助金も得て2000万円で展望台はこの4月完成し、井笠観光がお披露目ツアーを行った。
採石場に雨水がたまりエメラルドグリーンに輝く(丁場湖)

 昨年10月からは国の認定も受けて鳴本石材、井笠観光、三洋汽船とともにツアーや販売事業を始めた。笠岡市、笠岡商工会議所や北木島の飲食店事業者とも連携し、笠岡諸島全体の活性化事業も進める予定。ラーメンや煮どりなどによる町おこし活動にも活気を与える。

 また、「瀬戸内の石の文化」をキーワードに「日本遺産」に共同申請しようとしている笠岡と小豆島の応援パワーともなっている。

<次ページ:「地域の問題を解決するソリューションに東京から降りてくるものはほとんどない」(北井渉氏)>
日刊工業新聞2017年10月10日
加藤年紀
加藤年紀 Kato Toshiki
地方創生という話になった時に地方の雇用の問題という結論が多いが、それは今までの資本主義社会の構造の中での話。確かに、雇用が足りないという問題に対して緩やかに抗うということは必要かもしれないが、そもそも雇用がないと人が不幸せになるという社会構造を打破するために、テクノロジーやシェアエコなどに対する規制緩和によって生活コストを下げる努力もまた望まれるのではないかと思います。

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