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関西の域内総生産40兆円引き上げ構想、カギを握る県とは?

関西経済連合会会長・松本正義氏語る「滋賀、和歌山、奈良の底上げが最善策」
関西の域内総生産40兆円引き上げ構想、カギを握る県とは?

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 日本のモノづくりはソフト化している。ビッグデータ(大量データ)、IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)などの動向を見極めてこれらをハード(生産設備)と融合させることが重要となる。

 もともとモノづくりは日本は強いが、少子高齢化で労働人口が減っている。工場にIoTが導入され、ハードとの融合が進むにつれて、生産性は上がるが、人が減ることで技やノウハウが失われることを懸念する。

 日本人は勤勉で実直だ。これからもこれを維持しながら、IoT、ビッグデータ、AIなどを活用し、ソフトとハードを融合させたモノづくりに取り組めば、日本のモノづくりは世界に負けない。

 製造業は開発予算をカットしてはいけない。開発力がなくなると、メーカーは滅びてしまう。法人税の引き下げより、開発に関する税制を優遇する方が重要だ。

 一方で、所得の格差拡大は深刻になっている。孟子由来のことわざ「恒産なきものは恒心なし」にならないよう、ベーシックインカム(所得の最低保障)を導入すべきだろう。社会に安定をもたらすには、中間所得層の優遇も重要だが、ベーシックインカムを検討する時期に来ているのかも知れない。

 2016年秋、政府は20年ごろまでに日本の名目国内総生産(GDP)を600兆円に引き上げるという目標を掲げた。関西の域内総生産(GRP)は14年度で81兆円だ。

 関西経済連合会では、関西経済をかつて日本全体に占めていた割合である20%、つまり120兆円に上げようと取り組んでいるが、約40兆円の上積みはかなり難しい。

 だが、関西には多くの文化遺産、自然、歴史があり、何でも器用にモノを作る産業がある。大きな産業こそなくなったが、古くからのアジアと強い結びつきもある。これら先達が残したアセット(資産)の活用が今後、カギを握るだろう。

 具体的には、これらの資産をうまく活用して関西2府4県のGRPを高めることが重要になる。GRPの内訳は大阪府が38兆円、兵庫県が20兆円、京都府が10兆円、滋賀県が6兆円だ。奈良県、和歌山県がそれぞれ3・5兆円なので大阪府とは10倍以上の開きがある。

 滋賀県、和歌山県、奈良県の底上げが最善策になるだろう。関西には関西の魅力がある。強みであるモノづくりや観光産業など、関西の持ち味を生かし、20%経済を実現していきたい。
日刊工業新聞2017年9月29日「広角」より
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 関西経済の競争力を阻害する要因の一つとされる、交通インフラのミッシングリンク(未整備部分)。これを緩和する動きが出てきた。阪神高速道路は2030年前後の完成を目指し、関西以西をつなぐ大阪湾岸道路西伸部、大阪中心部から東に伸びる淀川左岸線延伸部の環状道路整備に着手した。道路インフラ改善は陸海空の連携につながり、新たな物流需要を開拓できる。  関経連の松本会長(住友電気工業会長)は、関西は首都圏や中部と比べ「ミッシングリンクが多すぎる」ことを危惧する。関西経済を一段と活性化するためにも、道路だけでなく空港、港湾といった物流インフラの改善と連携強化が焦眉の急だ。空路は関西エアポートが4月、関西国際空港の貨物便着陸料に割引きを適用。環状道路に近い大阪港は、大水深コンテナターミナル整備などが進む。 (日刊工業新聞大阪支社・中野恵美子)

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