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災害時のレスキュー部隊にロボットを!

平時利用をどうするかが課題
災害時のレスキュー部隊にロボットを!

運用インフラを整えていかに活用できるか

 実用化の壁
 日本の災害対応ロボット開発の歴史は長い。しかし、2011年3月の東日本大震災で日本の災害対応ロボットは稼働しなかった。消防や自衛隊などが災害現場で運用するロボットがなかったためだ。研究開発と実用化の間には大きな壁があった。

 災害対応ロボットの公的需要は市場が小さく事業として成立しづらい。実際に費用を負担する地方自治体にとっては、ロボットよりも、消防車の配備や建物の耐震性向上が急務だからだ。ただ、災害対応ロボットも平時利用の道が開かれれば、市場が広がりコストは下がる。平時の活用策として有望なのがトンネルや橋梁などのインフラ点検業務だ。

 情報収集用途
 実は平時と非常時の共用は以前から模索されてきた。02―06年度の国の「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」で、がれきの間に進入する小型ロボが開発され、平時利用は床下点検を狙っていた。10年にハウスメーカーで実用化され、戸建住宅専用の床下点検ロボとして製品化された。

 内閣府の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」で災害対応ロボの開発を統括する田所諭プログラムマネージャー(東北大学教授)は「災害対応ロボがまず実現すべきは情報収集用途」と説明する。ロボットが人の代わりにがれきを退け、生存者を抱えて救出することはまだ難しい。人の立ち入れない場所で、被害状況を確認したり、不明者の捜索をする情報収集が本命だ。がれきの隙間にはクローラーロボット、上空からの全容把握には飛行ロボット(ドローン)の活動が期待される。

 ドローン活用
 東北大の永谷圭司准教授らはクローラーロボと小型ドローンを組み合わせた調査システムを開発した。クローラーロボがヘリポートと中継基地の機能を持つため、電波の届かない建物内部でもドローンを飛ばせる。建物内部を測量し、がれきなどの状況を確認できる。

 ドローンは民間利用が急速に広がっている。コマツはドローンで施工現場の測量システムを構築。空撮写真から立体地図を作り、工事に必要な土量を計算する。構造計画研究所は幅0・2ミリメートルのひび割れを検出する画像処理ソフトを開発。送電線のむくみを検出することにも成功している。こうしたドローンの一部が災害時に自動で空撮して被災状況を対策本部に伝えれば、適切な救援部隊を送れる。ソフト対応だけですむため非常時への投資を抑えられる。

 芝浦工業大学の油田信一教授は「非常用機能付きロボットに導入補助金をつけるなどの仕組みは考えられる。ただ財源と管理責任の問題がつきまとう」と説明する。規制を含め、ドローンにはまだ制度整備も必要。ロボットを生かして、いかに災害に強い社会を作るのか。官民一体となった議論が必要だ。

 ※日刊工業新聞では「ロボット革命~人との共生時代~」を連載中です。
日刊工業新聞2015年06月19日 1面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
ロボットと共生する社会を探る連載の第3回です。災害時やインフラ点検のように、一定の強い需要が見込める分野で着実に実用化していくことが、次世代ロボットが社会に出るためのハードルを越える要になる。ユーザーに受け入れられるモノを作るのはもちろん、利用する側が新しい技術や製品に対する許容範囲を広げることも重要だろう。

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