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【小田島伸至】ソニーの新規事業創出プログラム、次は米中へ

「『スマートロック』は中核製品になりうる」
【小田島伸至】ソニーの新規事業創出プログラム、次は米中へ

小田島氏

 ―ソニーのインフラを使って独創的なアイデアを事業化する新規事業創出プログラム「SAP」を通じ、欧州向けの第1弾のビジネスとして、施設内の社員を把握できるシステム「ニムウェイ」を発表しました。
 「ヘルスケアや自動運転など先進国のビジネスチャンスや課題は似ている。欧州では仕事の効率化が進んでおり『テレワーク』や『遠隔作業』が日常的になりつつある。そして、すでに従業員がどこにいるか分からないといった新たな課題が顕在化している」

 ―ニムウェイは、その課題解決につながりますか。
 「欧州では従業員側も(会社による)勤務中の監視が効率生産につながると感じており、導入に対して抵抗感が少ない。ただ、働く場所が多様になる一方、効率的に働かなければならないという課題も起きる。いずれ日本市場などにも導入していく」

 ―SAPでの成果を海外展開することは、当初から考えていましたか。
 「最終的にはアイデアをビジネスに昇華しなければならない。そのため(事業の)スケール性は重要な要素の一つだ。ソニーは世界中に拠点や販売網を保有しており、企業規模の大きさを生かした戦略を考えている。新事業が育った際には量産や販売を即座に実行できるように準備している」

 ―SAPは、社内資産を最大に活用する面でも重要な役割を担っています。
 「SAPは性質上、社内の情報や資産の共有が大切だ。ニムウェイの場合は、日欧のSAPで発案されたアイデアを相互の社員で投票できるような仕組みを構築することで連携を深めた。地域間や部署間の人材交流も活発化させている。今後は中国や米国などでもSAPの導入を検討している」

 ―社外との連携は。
 「アイデアを考える人数は多い方が良い。従業員が12万人以上の当社グループですら(技術革新を創出するためには)人数が足りないと感じている。だから、社外との連携も必須であり、SAPが“橋渡し”を行う。社外のアイデアであっても協業することで、SAPと同様のプラットフォームに乗せて育成する」

 「現在は社外ベンチャーと連携する『スタートアップスイッチ』で新興企業の事業化を支援している。そのほか、注目の技術・企業に出資する『ソニーイノベーションファンド』とも情報を交換する」

 ―新製品をどのように収益に結び付けますか。
 「新製品の特性に合わせて各事業部などで利用してもらう。例えば、Qrio(キュリオ、東京都渋谷区)がSAPを通じて製品化した自動施錠・解錠システム『スマートロック』は、ソニーネットワークコミュニケーションズ(同品川区)のスマートホーム事業で中核製品になりうる」

 「スマートホーム市場でスマートロックの領域を手中に収めることは優位性がある。個人情報を他の家電とつなぐ上で重要だ。当社のカメラ製品と連動させれば、誰が家に入ったかを認識して写真や動画で家族に帰宅を知らせたり、好みに合わせて専用の音楽をかけたりすることも可能だ」
(聞き手=渡辺光太)
【略歴】2001年に東大工学部を卒業し、同年にソニーに入社した。07年から欧州で液晶ディスプレー事業を立ち上げ、売上高数百億円のビジネスに成長させた。14年には新規事業創出プログラム「SAP」を発足。現在は新規事業部門副部門長として、新規事業の創出支援を先導する。

日刊工業新聞2017年9月27日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
SAPには社内外のアイデアが集中していることから、有益な情報を振り分けたり、情報共有を促したりする機能も担いつつある。さらに、SAPから創出された製品は単体での販売だけでなく、他のビジネスやソリューションの強化にも貢献し、ソニーの成長戦略を支えるプラットフォームとして機能している。代表的な成功事例が待たれる。 (日刊工業新聞第一産業部・渡辺光太)

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